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【論文】
東北メデイカル・メガバンク機構企画の
検診・調査受検者に対するアンケートを施行して

村口 至・鈴木恵子(東北地方医療・福祉総合研究所)

【はじめに】

東北メデイカル・メガバンク機構の企画である住民の健康調査と抱きかかえに行われた遺伝子検査は、2016年3月をもって目標数をほぼ達成して検診事業は終わることになっています。
この事業は、地域住民コホート〔特定健診相乗り型・地域支援センター型として沿岸部中心に8万人以上の成人を対象〕と三世代コホート〔産院で妊婦に協力依頼し、子、親、祖父母の三世代の7万人を対象〕として行われました。
私たちは、当初から批判的な目でこの企画を見てきました。その主な理由の第一は、未曽有の大災害を受けた地域で、しかも復旧の目途も立っていない〈ひとも地域も弱体化〉したところをあえて対象にして「遺伝子収集」をすることは、「医学的倫理」に反することである。
第二に、今日「遺伝子研究」が発展途上の段階にあるにもかかわらず、「個別化医療」「個別化予防」に直ちに役立つかのような宣伝を先行させている不適切さがあること。
第三に、市民検診の会場で、そこに連動させて“断りがたい”環境で受検者を誘導していること。そして、「人間の復興」を最優先させるべき「震災復興予算」の使い方として適切ではない。との理由からです。
東北メデイカル・メガバンク(以下ToMMoと略す)に関しては、ホームページを参照してください 。

【調査方法】

ToMMoの企画が一通り済んだ2016年2月に、表記研究者が知人を対象にアンケート調査を行った。
計16名でうち2名は、地域支援センターのみの受検者である。
なお、対象者は、調査者のToMMoに関する見解は知らされていない。

【アンケート結果の考察】

16名中、自治体の特定健診からの受検者は14名、他2名は地域支援センターのみの受検者である。
自分の健康管理に役立つとして参加したのが10名(71.4%)と高率であり、結果に期待している人が7名いることは、今後ToMMoがこの期待にどのように対応できるかが問われることになる。
つまり、遺伝子検査の結果を待っている人が多数存在するということである。
特定健診会場に行くまで、遺伝子検査を知らなかったのは10名、「説明と同意」では、「よくわからないが同意した」が6名、説明である程度理解して同意したが9名、一方十分説明を聞いて理解して「同意した」は”ゼロ”であった。
また、遺伝子検査はよくわからないとした人が5名あった。
これらのことは、事前の広報(市民にとっては学習)の不足や会場での設営の不十分さを示唆している。
つまるところ、大震災後2年も経ない時期に、通常の一般検診会場に”連ねて”、市民が企画の意味を十分に理解できない中での“一方的企画”であったともいえる。
聞き取り調査では、地域支援センターでの高度の検査を評価する意見がある一方で、脳ドックを希望したが、腹部の手術歴があることで対象外とされたことから、個人の健康管理が目的ではなく、研究のためだったのだと不満を述べる人もいた。
70代の男性は、受検結果で骨粗しょう症とされたが、「ウソだろう誰かの間違いだろう」と思い、地域支援センターに問い合わせたが「らちが明かず」、かかりつけ医で再検査したところ「骨粗しょう症」は否定された。
「国の金の無駄遣いだ」と怒っていた。
これらの事例は、第1に企画の目的が「研究」にあること、そのための「資料」の提供が求められていることが伝わっていないことを示している。
また、地域の医療機関との連携が十分でないことが、被検者に混乱を招いていることを示している。
外部の研究者や企業の研究に役立たせてほしいが9名(56.3%)と過半を占めるが、一方で外部へ貸し出されることは知らなかったが7名。
県が協定を結んでいることを知らなかったが11名(68.8%)。
県はToMMoを監査・指導すべきが10名とあり、この企画に対する不安が強いこと、その適正な運営を担保するのに県が当たることを期待していることを示唆している。
被験者の中には、積極的な”善意”(研究への寄与)で参加した人も少なくない。
また、日常の診療では受けられない「各種検査を無料」で受けられることへの期待が根強くあったことも示された。
しかし、この企画は、検体収集目標達成後打ち切られることになっており、この“膨らんだ期待”に対して企画者はどのように対応するのか問われるであろう。
総じて言えることは、震災後5年を経ても仮設暮らしや元の集落の形成がない中で、未だ一般に普及していない企画、それも多くの被検者個人に、直ちに有効性をもたらすものではない「医療的方法」を、市民に対する事前の”学習・啓発”の不十分な状況で且つ又、地域医療支援(被災地医療機関への医師派遣=「循環型医師支援制度」)と抱き合わせに実施したことは、受け入れた自治体や県民に”善意の強制”性を強いたことは否定できないであろう。
また、今後この企画が、県民の財産としてどのように生かされるのか、どのように管理されるのか。県民が納得できる方策を立てることが宮城県当局側にも求められる。

東北メディカル・メガバンクの「長期健康調査」に参加者アンケート結果

実施対象
塩釜市・七ヶ浜町・利府町
調査期間
2015年10月~11月
回答者
16名(塩釜市2、七ヶ浜町12、利府町2) うち2名は地域センター受検。
性別
年代
3.11の震災・津波の被災・被害について(複数回答可) 健康調査に参加・協力した動機について(複数回答可) 健康調査には遺伝子検査が含まれます。
そのことを事前に知っていましたか?
その説明と同意について 健康調査に参加・協力の決定はどのようにしましたか? この健康調査に含まれる遺伝子検査についての、ご自身のお考えは? その他メガバンク検診結果について感じていることは何でしょうか? 東北メディカル・メガバンク機構に集められた地域住民の遺伝子を含む生体・病歴情報は、今後、匿名化されて外部の研究機関や民間企業に貸し出されることになりますが、このことについてのお気持ちやお考えをお聞かせください。
(複数回答可)
インターネットで東北メディカル・メガバンク機構のホームページから、事業や研究の進捗状況をご覧になっていますか? この事業は、東北メデイカル・メガバンクと県が協定を結んで施行されていますが、そのことをご存じでしたか? 県と東北メデイカル・メガバンクとの関係について その他、東北メディカル・メガバンク事業についてのご意見や感想をお聞かせください。
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