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青森県西北五地域医療調査報告

2022.5
東北地方医療・福祉総合研究所
村口 至

(要約)

 青森県では地方の活性化を謳い文句としつつ、2005年に平成の市町村大合併が強行された。
その後を追うように公立病院の再編統合が急がれた。
全国的には、その先頭を走った青森県西津軽地方の「西北五広域地域連合」は、5つの市・町立病院を、3つの病院と2つの無床診療所に統廃合した。
理由は人口減少と医師不足であった。
統合後10年を経過した現時点で、地域がどの様になったか、大事業はどのように定着し、新たな問題は何かについて調べ考察した。
結果は、センター病院は新しく大規模に整備され救急医療機能が集約されたが、住民の期待した程では無く、地方の医療を希薄化することになった。
今日の厚労省の施策によりできたセンター病院には、地元の人々は「かかりにくくなった」と感じさせるように、当事者の熱心な取り組みにも拘らず、少なからず住民をも医療から遠ざける結果になったと言える。
なによりも、住民が医療を身近に感じられなくなったことは、本政策に根本的問題が潜んでいるような気がする。
その背景には、国の医師養成数抑止策と医療の公共性を支える施策の貧しさがあることが浮き彫りになった。
そして、地方に住む人々の憲法25条をどう守るかの視点が見えてこなかった。

I 地域医療広域連合結成の効果と課題

1. 広域連合結成の概要1)2)

当地区は、平成17年の市町村大合併で1市10町村が1市3町へと6割4分削減され、面積は香川県に匹敵する広さである。その7年後の平成24年に、医療機関の再編成として「西北五広域連合」が発足し、5病院を3病院と2無床診療所に縮小再編し10年が経過した。人口は、2020年12,0470人から2045年には、65,234人と25年間で半分近くになると予想されている。
地域医療の再編時には、病院から無床診療所に縮小対象となった地域では、大きな住民運動が活発になされた。(後述)
対象5医療機関の変化の状況を⇒で示した3)。
西北中央病院(五所川原市)〈一般350床+精神60床〉⇒一般390+精神44+感染4
公立金木病院(金木町)〈一般146床+療養30床〉⇒一般60+療養40
鰺ヶ沢町立中央病院(鰺ヶ沢町)〈一般140床〉⇒一般70→60
鶴田町立中央病院(鶴田町)〈一般70床+療養60床〉⇒病床ゼロ
つがる市立成人病センター(つがる市木造町)〈一般92床〉⇒病床ゼロ
以下機能の変化を表に示すと
  病院数 診療所数 救急告知 総病床数 一般 感染 精神 療養
連合前 5 0 5 953 798 0 60 90
連合後 3 2 3 608 520 4 44 40

結果として

病院数 診療所数 救急告知 総病床数 一般 感染 精神 療養
▼2 +2 ▼2 ▼345 ▼278 +4 ▼16 ▼50

病床総数で36%も減らした。(▼は減少数)

民間を含めた地域医療での「広域連合」の比重も下表に見る如く大きく減退した。

  連合化前  連合化以後
総ベッド数比率 54.6% 43.3%
一般ベッド数比率 85.8% 79.8%
療養型ベッド数比率 14.2% 6.8%
すべての病院の名称は変わり、自治体立名がなくなった。
5公立病院はすべて救急告知病院であったが3病院に減少。
公立病院総ベッド数608は、地域全体の半数割れになり、療養型病床は1割を割り込んだが、施設の量的比重の低下が医療機能の役割としてどのように変化したかに関心を持つ。
地域の唯一の病院である鰺ヶ沢町立病院と町立金木病院は、かつては、それぞれ9科、7科の診療標榜科があったが、7、7科に後退した。なお、五所川原市と鰺ヶ沢町へはJR駅間で35分、金木町とは40分の所要である。
無床診療所化したつがる市木造町と鶴田町には、救急告示病院が存在しないことになった。いずれもJR駅では、五所川原駅の北隣と南隣り駅で所要時間は各6分ではある。
民間病院:
五所川原市 4病院529床(一般123、療養286)
つがる市 1病院265床(療養256床)
鶴田町 なし、無床診療所2軒
鰺ヶ沢町 なし、無床診療所2軒
 金木町 1病院、無床診療所1軒
5民間病院の総ベッド数794床中療養型542床(68%)にみるように、民間は 療養型機能を任っている。
保健所は、当地区に2か所(五所川原市と鰺ヶ沢町)にあったが、鰺ヶ沢町地区のそれは五所川原市保健所に統合された。つまり香川県の広さに1ヶ所という事です。
患者の受療動向では、当地域は自圏域での完結率は64.1%で、県内全医療圏域で最低となっている(「青森県地域医療再生計画(西北五地域保健医療圏)、平成28年」による)。隣接する津軽医療圏に26%を依存しているが、弘前大学医学部を擁する津軽医療圏があることによると思われる。
専門的医療機能の強化(「青森県地域医療再生計画(西北五地域保健医療圏)、平成28年」による)に関しては、・医師不足等により専門的医療機能が低く、医療が提供できない分野が多い、・がんの診療、循環器疾患・神経・脳血管疾患の診療について、圏域内ではできない治療も多く、圏域外に流出する患者も多いことから、体制を整備すると指摘しているが、常勤医/非常勤医の増加や診療科の増加でかなり対応が進んでいるようであるが、心外科、脳外科などの目玉とした科の医師体制が整わず更なる今後の課題のようだ。

2. 医師体制など

常勤医師数推移
H17年 H18年 H19年 H20年 R元年 R2年 R2対H17
総数 62 65 56 51 64 66 +4
つがる総合病院 35 32 32 28 50 50 +15
鰺ヶ沢病院
かなぎ病院 ▲2
つがる診療所 ▲4
鶴田診療所 ▲5
上表にみる如く、再編成の結果は、医師総数で4名しか増えず、センター病院で15名増えたが、他のサテライトは2~4名減員になった。
猶、センター病院であるつがる総合病院の医師の最近年の常勤・非常勤の状況は、下記の如くである。
H25年 H26年 H27年 H28年 H29年 H30年 R元年 R2年 R3年 増減
総数 63 68 74 73 75 74 74 72 71 +8
常勤 51 55 63 63 65 63 67 65 63 +12
非常勤 12 13 11 10 10 11 11 7 8 ▼4
表は、高橋氏(つがる総合病院事務部)の提供による。
表からは、H27年の広域連合の体制ができた年から、全医師数は60余名から70名の大台に乗った。
常勤医師数では50名台から60名台に乗ったが、最高時で67名に止まり非常勤医師で、苦労して体制を維持している様子がわかる。
センター病院であるつがる総合病院は、総数でH25年の46人(常35+非常11)を最低に、最高でH27年の59人(常48+非常11)であった。
表では、常勤医師の数字の変動が63~67と大きく、大学からの医師配置の不安定さを暗示している。
・センター病院の当直業務を考えると、常勤医師22科52名中、内科系は15名であり(2022年4月ホームページ掲載)、当直を複数医師で行う場合は、週に1回以上の当直回数になる。
この頻度は、全常勤医が担えるはずがないことを示唆し、長期間耐えられるか危惧される。
10年経過して、以前から従事していた医師で残っているのは、センター病院の現院長1人だけになったという。
これは何を意味するのか。
医師人事は、基本的に弘前大学に依るという。
連合体としての統一した医師人事方針・組織をつくれないのかもしれない。
すると、各病院又は科長が弘前大医局との関係で人事を行っていると思われる。
一部に県立病院からの移動もあるようだ。
つがる市診療所でも、4月に所長と事務長が弘前大学医学部教授参りする予定という。
地域で一局集中の急性期病院となり、医師や看護師の労働は厳しくなり、退職が相次いだことがある由。
初期研修医枠10名であるが、2022年は6名採用。新専門医制度によって、初期研修で育てた医師を継続して採用することができなくなった。つまり、初期研修から引き続いて地域の医師を育てることができなくなったことは、地域医療にとって問題が大きい。
総務省・厚労省の「公立・公的病院再編」は、「特殊急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」「在宅」と病院を機能別にし削減する方向であるので、過疎地域においては、地域に病院数が少ないこと(削減した事)から、センター病院内で、急性期、慢性期、回復期の病棟区分で対応することになりかねない。
これは、厚労省の思惑と異なる結果をもたらすに違いない
地域に病院数が少ないうえ、公立病院の比重が高い当地区の場合は、公立病院の再編縮小は、急性期病院(センター)から回復期病院(サテライト)に転院した場合、遠方になり患者、家族への負担が大きい。
猶、西北五地域の自治体病院等の機能再編成について問われたことへの有賀玲子県福祉部長の評価は、「常勤医師数は平成2年4月の50名から今年4月は72名と22名増加し、基幹病院のつがる総合病院と前身の西北中央病院との比較では、11年間で28名から56名に倍増し、診療科は16から22に増え、再編の成果が上がっている」(県議会令和元年第300回定例会、2019,11,28)4)としているが、この常勤医の数字は、先に示した広域連合が出している資料と大きく異なっており、非常勤医を含めた数字に近いのであって、ごまかしと言える。
また評価を問われて医師の数字と診療科の増加のみしか評価の視点を措かず、再編縮小された病院の地域住民への言及がなかったことは市民サイドの評価が眼中にない点には大いに疑問だ。

3. 住民運動

2003年から05年にかけて労組各団体による自治体キャラバンや住民の会を組織しての運動が展開された5)6)7)8)。
西北五地域医療共闘会議を県医労連、自治労連県本部、西北五地区労連、西北中部病院職員組合の4団体で結成し、住民の会結成案内ビラを3万枚用意した。
住民懇談会やシンポジウムなどに鋭意取り組んだ。
この間行われた首長選挙や国政選挙の候補者へ公開質問状を発し政治問題化する取り組みもした。
つがる成人病医療センター無床診療所化には1万筆の署名を集め、町議会請願も採択させるなどの町民運動も生み出した。
圏域14首長との懇談では、「最大の問題は医師確保だ」と共通していた。
対県交渉では、県の医療総務課薬事課長は「医師の地域や診療科の偏在があり、需要計画策定しても実態に即したものはできな」と半ばさじを投げだしているかの如くであった。
猶、労組にこの運動に刺激を与えたのは、地方のお年寄りの手紙であった由。(後記注7)
「市民カフェ弘前」9)を医師や弁護士、元医学部教授や市民活動家による市民フォーラム活動が企画された。
ここでは、病院再編問題から市政のあり方などについて系統的に公開論議が行われた。
2019年12月~2020年8月までの期間に9回行っている。
主催者のひとり大竹進医師は、地域で診療所を開設しつつ県北の無医村での診療活動も行い県知事選にも立候補するなど青森県の地域医療の改革に身を以て取り組んでいる方である。
このような市民を巻き込んだ活動もなされていた。
町立金木町病院の医師6名中2名の退職を前にして、病院の「救急告知」を返上することが議会で問題になった。
それを受けて、寺の住職を中心に町内会、地域自治労、議員、地域医療を考える共産党系団体などが結集し、2週間で2万を超える署名を集め、集会、講演会、そして各戸の軒にホワイトリボンを飾る運動などに、新聞報道で知った他市の医師等が加わり「あっという間に常勤医8名になった」という成果を上げた10)。
医療現場を知るために県内すべての総合病院の医師にアンケートを取り、医師労働の厳しさを知る活動も生んでいた。
此の間、たった1年余の市民の町をあげての活動であったが、大変教訓的である。
*病院再編後10年を経過したが、運動に取り組んだ地域組織の現状については、聞くことができなかった。
住民運動の維持することの困難さを示唆している。

II まとめ的に

1. 広域医療再編の効果と課題

地域にある公立病院の医師の集約化を図って1センター病院と4つのサテライト病院と2つの診療所に医療人を再編することで、市民の医療要求に対応せんとした。が10年を経過してその功罪が問われる。

〈全県的にみる西北五地域医療の特徴〉

県の6地域医療圏で地域住民の自圏域受療率は60.6%で、最も低い(青森県地域医療構想、平成28年3月)。
県内6地域医療圏での、循環器、神経・脳血管疾患対応治療技術の比較では、特殊技術8項目中西北五地区は4項目,神経・脳血管分野9項目では1項目と他地区に比して最も技術過疎地区である(青森県医療機能調査 平成18年)、心臓外科医、脳外科医名が搭載されているが未だに手術体制が整っていないようだ。
当地区の医療従事者:医師155(人口10万対101.2)、看護師720(同470.3) 保健師81(同52.9)、助産師16(同10.5)、以下順次に、人口10万対では医師は青森県170.5(全国206.3)、看護師714.7(同635.5)、保健師41.4(同31.5)、助産師21.2(同20.2) 以上見る如く、人口当たりの県の医師数に比して当地区の医師は90.9%(同75.1%)、看護師100.7%(同74.0%)、保健師127.7%(同167.9%)、助産師51.9%(同51.9%)医師、助産師不足が目立つ。
400床規模の県内9病院の中で最も医師が少なく、同規模の病院の常勤医数の平均41.2人を大きく下回る30人となっていた(同報告書P20) 医師や助産師に多くの負荷がかかっている構造になっている。
つまり、全国的に人口当たりの医師数が最も少ない方である青森県の中でも当地区は最も少ない医師数の地域である。
その情況の中で、地域広域連合を作り公立病院の再編化によって全体の医師数を若干増加させた成果は見られる。
しかし、その中での新たな困難さも無視できない
医師・医療人の集約化を図ることにより
(a)救急医療の1局集中による弊害(センター病院への業務集中・過密化などによる職員の超過重労働、つまりスタッフが足りない)
(b)救急搬送時間の長時間化 などの問題が新たに発生した。
センター病院に到着した救急車が立ち並ぶこともあるという。
各医療機関の統計には、センター病院のつがる総合病院との関係での患者の紹介先と紹介元の統計があり、その連携機能の評価をしている。
それによると、紹介先のサテライト(連合関連)病院との関係では、紹介先では、18.8%~22.0%、紹介元では17.7%~20.2%となっている。
サテライト医療機関以外からも広く地域医療に貢献している事を示している。
当初構想の目玉であった心臓外科、脳外科構想は、その医師体制をつくれずに経過しており、よって構想の重要部分が欠けている事への住民の期待外れ感は大きい。
県内他地区に比して、患者の他地区への流出が多い圏域であることへの対応の目玉が実現しなくなった。
弘前大学が構想策定の当初より関与してきたうえでの”目玉構想“が欠けたことに関する大学の責任は大きいと言える。
域の救急医療状況を、当地区消防の救急車出動件数でみると当地区(五所川原市、つがる市、鰺ヶ沢町の各消防組合)の平成30年の救急車搬送件数は、3,261人その9割以上をセンター病院で引き受けその任を果たしている。
県の救急車出動の重症度別に見ると、青森県死亡3.2%(全国0.5%)、重症22.0%(同10.0%)、中等症37.2%(同37.6%)、軽症37.5%(同50.8%)に見るように、重症度の比率が高い。
県民はぎりぎりまで我慢していることを暗示している(平成21年度広域ブロック施策事業等推進調査「東北圏における救急医療体制の課題分析」に関する調査報告書)。
また、同報告では、被搬送者の年齢では、青森県は高齢者が54.3%で全国の48.3%より多くなっており、今後、重症化した高齢者の搬送が増えることを示唆している。

〈広域連合という機構について〉

定款では、議会をもち住民代表も名簿にあるが、旧町の代議員は1名であり、年1,2回の会議では、住民との距離感はと遠いに違いない。
旧来の市・町立病院では、市・町の議会での重要な審議議案であったはずであるがその機会を失ったことになる。
五所川原市役所を訪ねたが、市民の医療情報については開示されなかった。
市内の医療機関に関する情報は持ち合わせていない。
保健所(当広域地区)も県がホームページで公表している情報以外に、独自に地域医療・医療機関情報は持ち合わせないという事であった。
鯵沢町の保健所は五所川原市の保健所に統合され、町民の不自由さを増している。
広域連合結成には、弘前大学も関わり医師配置の責任を請負ったが、8年経過するも予定通り医師配置に至っていない。
5病院・診療所全ての医療機関の医師配置も弘前大学の医局と県立病院が医師配置を行っているが、広域連合には統一した医師組織はないため、それぞれの医療機関が所属する医局の対応に当たることになっている。
よって、広域連合としての「医師集団」を形成するには至っていない。
“地域で医師が育つ” “地域で医師を育てる”という構造をつくれないでいる。
広域連合結成の音頭を取ったのは、五所川原市長と言われる。
県の地域医療再編構想に真っ先に手を挙げたといわれる。
医師確保のためには、市長は県知事を伴って当地出身の医師を、大阪まで訪ね説得を試みるなどもした。
金木町出身の津島代議士も尽力したようである。
政治家にとっても医療課題が大きいことを示している(五所川原市議会議事録)。

2. 青森県の地域医療の課題

当県の医療問題の特徴は、第1に3大死因で全国トップクラス 第2に医師不足 第3に公立病院の比重が高いという特徴がある。

人口10万対(平成27年)では、全死因で男女とも全国トップで、全国平均と比べると男で94.6人、女で33.4人多い。
主要疾患で見ると悪性新生物男36.3、女15.3、脳血管で男15.0、女7.2、肺炎男10.8、女3.8、糖尿病男3.8、女1.2と主な死因の全国比で差が大きい。
特に男性の全国との開きが目立つ。
一方、老衰は男0.4、女マイナス0.3となっている。
県当局も3大死因の対策を重視している。

 なお、西津軽地域で救急告知病院を一気に無床診療所化された鶴田町は、3大死亡率で県下トップであるが、検診受診率もトップである。
ここには保健師の懸命な地域活動や、町の助成(精密検査に8,000円、禁煙外来受診者に1万円など)を見ることができるが、なぜ死亡率が高いのかの質問に町の保健師は「貧困がある」と低い声で答えた。
ここに青森県の苦しい現実が表明されているのかもしれない。
医師不足は、施設所属医師で人口10万人あたり全国都道府県の下から数えて4番目(170.5)、全国平均は206.3とその差は35.8人と大きい。
下位3県は、埼玉県、茨城県、千葉県の首都圏域の人口急増地域である。
平成12年から同18年の6年間の増加では、全国平均+14.7人増加に対して青森県は+9.6人、一方埼玉県は+18.2人に見るように、年々その格差は拡大していると言える(出典:都道府県格付研究所)。
近年は弘前大学への地元出身者入学対策が効を示しつつあるが、先を見通せないでいる。
特に西北五地区や下北半島地区の医師不足は深刻である。
弘前大学医学部の入学時の地域枠は120名中65人と比率が高いが、五所川原地区での市民活動家との間では、「この地区から医学生は出ていない」「貧困が背景にある」との会話があった。

 平成の市町村大合併で40%の自治体は消えたが、それは、過疎地を拡大する方向へ働き地方地域の自治能力を奪う方向に作用したに違いない。
合併作業時に地域の自治会など組織の活性化がうたわれたが、その後検証した様子はない。
青森県の医療に占める市町村立病院の役割は極めて高いことを念頭に置くべきであろう。
県内病院に占める自治体病院の比率は全国トップで24.4%を占める。
(R3年厚労省医療施設動態調査) 青森県の自治体病院数94 市町村立 23(全病院数の24.4%) 全国の自治体病院数8,300 市町村立 612(全病院数の7.4%) 上記に見るように、青森県の地域医療を支えているのは市町村立病院であることが示されている。
地方にゆくに従ってその比率は高くなり、私的医療機関が少ないことを意味しており、今日の総務省と厚労省の推進する公立病院再編縮小は、多くの“無医地区化・無医療機関化産出”を意味しており、地域住民の医療受療権を直接脅かすことになる。

 私的医療機関の多くは、主に回復期や療養型医療を担う施設が多くなっており、町立小規模病院でも救急告知機能を果たす意味は重視されねばならない。
西北五地域医療再編は、2つの町立病院のベッドを奪うことで救急告知機能も失った。
夜間の死にも対応出来なくなった地域を、高齢化の進行する地域の住民はどのように受け止められるか。
思うだけで悲惨だ。
ここにきて県内の開業医数も減少傾向にあるという。
現在、津軽医療圏の中心都市弘前市の国立病院と市立病院の合併統合計画が進行中である。
廃院となる市立病院では、マスコミ報道をきっかけに、「患者も、医師も激減し、それまで黒字で推移していた病院経営が2017年度決算では、5億5,200万円の赤字を出す事態になった(県議会平成30年定例議会、安藤はるみ議員質問11))とあるが、再編合併にはこのような混乱を伴うだけでなく、他の公立病院の再編縮小も大変気になるところである。

〈県内の医師養成をめぐる厳しい状況:自治体病院の再編に当たり青森県の独自の問題性〉

医学部卒業後の医師の地元獲得に成功していない。
初期研修医コースに「地域医療重点プログラム」コースがあるが、2022年時点で青森県内の研修病院でこのコースを設定している病院はない。
2021年度初期研修病院マッチングでは、青森県13病院の採用定数133人中マッチ者数78人で58%にとどまっている。
猶、つがる西北五広域連合つがる病院は、2022年度定員6人で6人の100%のマッチ率である。
研修病院の規模は、多くは300床以上病院であり、地域に密着している200床規模の医療機関は例外的である。
猶、弘前大学医学部卒業生110名余のうち半数は県内の病院での研修に就いているという。
3割は関東圏出身者であり、関東圏出身者に在学中に東北の地域に関心を持てるプログラムを用意できるかが問われている。
専門医制度・・今日では、初期研修を終えると専門医資格取得のために、さらに医学部や大規模病院に数年間所属し研鑽する。
内科学会専門医指定病院数では、山形県3,青森県4,岩手県6,秋田県6,福島県7,宮城県16で青森県は少ない方であり、よって医師の県内定着率は不利である。
その結果として、青森県の「総合内科専門医」は205名で全国では下から数えて3番目。
「認定内科医」は同6番目と少ない県になっている(2021年10月1日現在)。
専門医養成施設が少ない。
そのことが、他県への医師を引き止められないとの指摘がある。
一戸氏12)は、専門医研修できる大規模病院作りのために、青森市の県立、市立病院の統合を位置づけている。
なお、それだけでなく、地方に医師を獲得するために、都道府県ごとに「専門医定数枠」の設定や、病院管理者などにつくにあたっての条件に地方勤務を付すべきとの提案をしている13)。
一戸氏の提起もあってか、近年この件での論議が始まっているようだ14)。
なお、大竹氏は、専門医資格要件に1年間の僻地医療就任を義務付けることを提起している。
開業医数も減少傾向に入った。
人口減少を受けてやむを得ない(県医師会訪問) というが、それでよいのだろうかとも思う。
進展する人口減少地区がますます見放されてゆくのを座視してよいのか と問われているような気がする。
という意味でも、医学教育での地域医療教育に期待したいところだ。
弘前大学医学部に所属する医師数は全国の医学部での最も少ない方にある(大竹医師指摘)という。
ある教授は、所属する医師が少ないために医学部病院の当直もしているという窮状にあるとも耳にする。
医学生が、青森県の医療問題や、過疎地域の問題に触れる機会があるのだろうか。
私は、過疎地域医療に従事する医師を“義務化”で誘導する制度は成功しないと思う。
若い学生時代に、地域にどれだけ触れさせるか、そのための教育とシステムをこそ開発すべきではないだろうか。
私の場合は、サークル社会衛生部が毎年春、夏休暇中に、秋田や岩手の無医村に「農村調査」と称して、2週間部落の集会所に泊まり込み、戸別訪問で血圧測定や健康調査を実施し、リポートを作成した。
この企画には、同級生の6割は参加した。
級友の東北出身は3割弱であったが、多い関東圏出身者も卒業後は宮城県や東北地方に残りました。
つまり、学内に閉じこもった6年間の教育では、卒業後は何の未練もなく他県に移動するという状況を医学教育の中で変える大胆な試みが求められている。
医師初期研修制度の限界:
かつては、医学部卒業後は、医学部の医局に所属し、その関連病院(多くは中小病院)へ2,3年赴任し、地域医療の研修でオールマイティの医師として基礎を積み大学医局へ戻り専門医へと進んだ。
よってどんな科の専門医でも、1次救急の対応はできていた。
ところが今日の2年間の初期研修制度は規模の大きい病院が中心となり、地方の病院は少なく、かつてのごとき「地域医療」の研修はできなくなっている。
そのうえ、その後に続く学会専門医制度は、再び大学医局や大規模病院に縛られ、地域医療から離れてゆく。
この構造は、医師が養成される過程から、「地域医療」を遠ざけるように作用する。

3. わが国の医療政策との関係で

決定的な医師不足定的な医師不足
我が国の人口当たりの医師数は(2019年)、OECD諸国(千人当り)の平均3.6に対して2.5であり、このOECDの平均を上回る県は、わが都道府県にはない。
なお、OECDの人口あたりの医師数では、我国は加盟36ケ国中25位である。
この状況への抜本策を立てずに、医師の過労死への批判を前に「働き方改革」で労務管理を強化せんとして現場に押し付けてきているがそれはさらなる大規模病院への医師の収斂を意味する。
さらには、初期研修システムで医師を大学病院と大病院に縛り付け、更にはその先の専門医制度で医学部関連の大病院中心に医師を拘束する。
この制度は、明らかに医師の意識を地域からそらせるように作用している。
せめてOECD諸国の平均値まで国は医師数の増加を図るべきであろう。
【夜間救急医療の医師体制とれず】
夜間当直の救急医療を担うのは多くは「内科医師」である。
それは、オールマイテイ性を求められることによるが、一般に内科系医師は最も人員数が多いことや、他の専門科は翌日の手術や外来診療などもあり医師が少ないことから、当直は内科医が担当するのが一般的である。
厚労省の「医師不足地域への充足地域からの医師のシフト」の検討企画による面白い調査を紹介したい。
医師充足県から不足地域への医師のシフトを検討した調査15)では、結果的に不可能であることが判明したのであった。
それは、比較的医師充足度の高い県の大阪の市中病院の調査で、医師充足病院から不足地への医師のシフトが可能かの問いに対して、夜間当直は主に内科医が担っており、内科専攻医師を他に回すと、医療体制を取れなくなるという事であった。
夜間時間帯の救急は、総合的力量が求められる。
よって、他科の専攻医では不可能だからだ。
では、救急専門医はどうかというと、まったく実人数が足りないのだ
総務省局長コロナ通達(2022年3月29日)16)
公立公的病院の縮小・再編を強行してきた総務省が、ここにきてコロナを経験し公立病院の役割の重要性に気づき、感染対策のため「各病院の機能分化・連携強化を更に進める 事、基幹病院からのスタッフ派遣などに取り組むこと。
感染拡大に対応した病床の転床や転用しやすいスペースの確保」などを求めている。
現実は、ワンフロア単位で感染用に対応している現実をわかっていない。
さらに問題は、病床数の問題だけではなく、医師、看護師などのスタッフ数の不足には目をつむり、連携のみを強調する政策にあきれる。
この通達の1ケ月後に「かなぎ病院クラスター、新たに9人感染」(奥羽日報2022年4月27日)と報じられた。
同じフロア従事者4人、入院患者4人、退院した1人、院内感染とみられる。
救急搬送、入院受け入れ停止、外来診療、救急外来一時停止・・等々。
ベッドを削減し、医師やスタッフも縮小した病院での苦労がこの度のコロナパンデミックで、医療機関や医療人をその限界を超えて襲ってきた。
総務省「病院の機能分化・連携強化」「基幹病院から医師や看護師を派遣すること。
感染拡大時に活用しやすい病床や転用しやすいスペース等の確保」を一層進めろ、と今更言われても、連携先もギリギリの体制では、この通達は、紙切れ同然。
国の施策との関連で以上見てきた如く、再編先進地の「西北五連合」の10年経過は、総務省の公立・公的病院再編の施策は、赤字病院減らし、医師不足対策を目玉にしているが、元来医師数の少ない地域で人口減少に悩む地域にとっては、その矛盾をより強める方向に作用していることが示された。
特に公立病院の比率が多い地域にとっては、そこをターゲットにした「公立病院再編縮小」政策は、地域住民の受療権を奪う危険な手である事が示された。
もう一つの手法である「医師の働き方改革」は、元来少ない医師の一局集約化を促進させるに違いないし、初期研修医制度と学会専門医制度による“相乗効果”は、医師不足地域を更に追い込むことになっていることを直視すべきであろう。
この窮状を乗り越えるには、医師数の抜本的増加、せめてOECDの平均を当面目指すべきであろう。
人口減少の中で、地方の地域のひとの居住権を奪い、受療権を危うくする改革が全国的に広がることは、憲法に保障された生存権・居住権を奪うことになる。

4. 市民の声-今日の評価・・利用者や地域の声など

〈センター病院について〉

津軽地方は県内でも有数の豪雪地帯であり、猛吹雪などの時は通院に普段より2~3倍の時間がかかる。助かる命も助からぬ心配が大きい。
県内のヘリ基地は2ケ所あるが、当地区のヘリの搬入所要時間は60分前後であり、脳、心の急性期治療には間に合わない恐れがある。
また豪雪によりヘリも運行できないことがときに発生している。

〈医師について〉

〈規模縮少化した病院について〉

〈無床診療所化した医療機関について〉

つがる市民診療所の場合:昭和28年に木造町国保直営病院として発足、10年後にベッド最高150床(一般100、結核35、伝染15)、救急告知、がん疼痛管理、重傷者療養管理などなど積極的医療活動を行っていた。
平成17年の1町4村合併でつがる市となった時に、つがる市国民保険病院つがる市立成人病センターへと改称し、CT、MRIも設置し医療活動に意欲的であった。
診療所化には、地域住民の反対運動が広く取り組まれた。
 〈市民の声〉の収録は、筆者の五所川原市、鶴田町、木造町を訪問したときの店の軒先での客や店員との会話、病院労組員、津軽医療生協の職員、理事や会員、鶴田町役場のアンケート(2022年)、日本共産党五所川原市市民アンケート(148人、2014年)等によった。
このような市民の声の背景には、これまで触れてきたこと以外に、平成の大合併による問題が底流にありそうだ
平成の大合併で青森県は、自治体数67から40へと40%の自治体が消えた。
うち、津軽半島にかけての3地区は、飛び地の合併となっている。
それくらい、地域の歴史、地理、文化の複雑さと多様性に富む地域でもある。
なお、全国では、自治体数減少率46.5%である。
自治体合併の効果として、青森県全体として自治体特別職68%、議員45.8%減少させ、年間の給与、報酬で21億1千万円を減らせたとしている。
さらには、小中高校の統廃合も行われ、それを補うものとして、地域審議会設置、地域協議会設置、自治会連合会設置などが提案されているが、どのように機能しているかの報告はない。
「青森県における平成の合併のとりまとめ」(平成22年2月)の中には、医療機関に関する再編には触れていない。

【私の結論】

医療政策を“経済合理主義”から解放し、憲法25条実現“人間社会非合理主義”に大転を図ること。
自治体立病院の強制的縮小再編は中止し、住民の受療権の目線に立った地域医療の再構成をすること。
医師については、医学部在学中に地域医療について触れる機会を増やすこと。

【参考資料】

  1. つがる西北五広域連合、西北五地域における自治体病院機能再編成マスタープラン(改訂版)、平成21年3月(平成24年11月一部変更)
  2. 青森県、青森県地域医療再生計画(西北五地域保健医療圏)
  3. つがる西北五広域連合、新公立病院改革プランの点検・評価の概要(令和2年度実績)
  4. 有賀玲子青森県健康福祉部長、青森県議会令和元年第300回定例会(第2号)
  5. 金川佳弘、住民とともに歩む自治体病院を目指して、月刊国民医療、2006年11月1日
  6. 西北五地域医療を守る住民の会、住民の会会報、1号~18号、2004年9月~2007年7月
  7. 鯵ヶ沢町在住72歳(女)、資料6)に記載。「西北中央病院労働組合御中、西海岸3町が合併して1つの町になると云ふ事で、其れでは町立病院ももう少し充実させて良くなるかと思っておりましたが逆で心外です。西北病院は大きくなるのはそれはそれで心強くよいと思いますが、普通の病気でそんな大病院に行く必要はあまりないのです。我が町では、お産も出来ず小児科もなく、若い人は安心して住めません。医療、教育、住宅の安心のない町は、なんぼ合併しても老人の町になって発展はありません。町村合併をすすめている各町村長は、何を考えているのでせうか。赤字だから何もかも縮小するのではなく町、住民にとって必要なものを死守するのが首長の使命のはづです。住人の署名も、なんもなく、しづかに縮小されていくのが不思議です。以上。
  8. 工藤詔隆、青森県西北五地域医療を守る住民の会の取り組み、「地域医療の未来を創る」旬報社、2016年
  9. 大竹進、「市民カフェ弘前」を共同企画し、地域医療や地域行政のあり方について公開討論を行った。氏は、医師不足対策に、専門医取得要件に1年間の僻地医療従事を加えることを提案している。
  10. 一戸彰晃、金木病院の救急医療体制を維持する会、地域医療の崩壊を防いだ「金木病院救急医療再開物語」、第32回北海道自治研集会、2009年4月
  11. 日本共産党青森県会議員安藤はるみ、「地域医療構想では、青森県で4,487床減らすよう求めている。構想は財政再建のための医療費抑制から始まっている。新型コロナウイルスをはじめ新たな感染症が蔓延する可能性が否定できない今日、救える命が救えない事態を招かないためにも、新中核病院の増床の検討を求めたい」(2021年青森県議会決算委員会)
  12. 一戸和成、「地域医療構想」をめぐってー地域医療・その実績と課題―、公益財団法人医療科学研究所講演録、2016年、
  13. 一戸和成、医学部入学定員の「地域枠」、運用厳格化で医師偏在是正をー、医師需給分科会、2016年3月、氏はこの席で、
    ①新専門医について都道府県ごとに定数枠を設け超過分は保険医登録を認めないなどを渡欧して数年かけて医師の均霑化を図る。
    ②病院管理者や理事長要件に「医師免許取得後10年目以降に、一定期間、医師不足地域で臨床に従事すること」などを提案している。
  14. 橋本佳子(m3.com編集長)、旧来の学会認定専門医の機構認定移行は今後の課題、2022年5月25日
  15. 長野広之、原広司ら、専攻医数シーリングの影響と地域の医師・医療確保:大阪府病院調査から、あ社会保険旬報 No2847、2022.2.21
  16. 総務省自治財政局長、公立病院経営強化の推進について(通知)、令和4年3月29日

I 調査目的と意義

  1. 第2次ともいえる公立・公的病院再編が強行されている今日、そのもたらす影響について検証することが重要である。
  2. 青森縣北津軽地方の「西北五広域地域医療連合」は、わが国で最も早く公立病院の再編に取り組んだところで、8年を経過した。この地域医療再編が地域に何をもたらしたか,何が課題として浮上したかを明らかにすることは、今日の全国な公立・公的病院の再編の未来を予測するうえで意義を持つ。

II 調査目的と意義

  1. 2022年3月14日~18日,5月13~17日現地訪問調査
  2. 方法:事前調査(青森県、西北五地域医療連合のホームページなど資料収集)
    現地調査:関係者訪問(西北五広域連合つがる総合病院、西北五広域連合つがる市民診療所(つがる市木造町)、同つがる広域連合労働組合、津軽保健生協健生五所川原診療所、同医療生協理事、地域活動家、五所川原市保健所、同市役所、同市図書館、鶴田町役場、鶴田町診療所、青森県医労連、共産党県議、共産党津軽地区委員会、青森県医師会、青森県保険医協会広野事務参与、大竹進医師(大竹整形外科院長、元青森県保険医協会会長)、一戸和成氏(公立野辺地病院事業管理者、元青森県保健福祉部長)
この調査は、いのちとくらし総合研究所の助成を受けた。
(いのちとくらし研究所報 No.79 2022年7月15日、特定非営利法人 非営利・協同総合研究所 いのちとくらし)より転載
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