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医科大学新設は公立(県立)で

〜2014年4月 号外〜 東北地方医療・福祉総合研究所 理事長 村口 至
(元坂総合病院院長)

1.「医学部新設の検討は時間をかけてオープンに」〜文部科学省の担当官を訪ねて〜

私は、2月2日付けの河北新報「持論時論」欄で「被災地復興を考え県立で」と訴えました。
しかし、その後の動きは、仙台と福島の私大グループの表明のみです。
宮城県村井知事からは「県立」の表明はなく、奨学金制度での対応しか語っていません。
当欄投稿で私が明らかにした如く、私立医科大学では奨学金制度をもってしても、被災地や過疎地の医療の根本的対策にはならないのは事実が示しています(資料1、2)。
私は、2月末に文部科学省の担当官を訪ね以下のことを確認してきました。

構想に必要とする要件には「福島原発の被ばく医学も含まれること
(ただし、この件は福島県立医大との協力関係でもよい)」
東北地方が構想に入ることでは、「東北にある6つの医学部の連携した企画を求める」
「新設の費用は『復興予算』を充当してもよいと考えるが、知事の裁量内にある」

が明らかになりました。
この内容は、4月3日の衆議院東日本大震災復興特別委員会の審議でも確認されました。
つまり、もっと時間をかけて「被災地のため、遅れている東北地方全体の医療対策のため」にいかなる医学部構想がよいのか、どのような設立母体がよいのかなど、 広く県民の議論を県政のトップは呼びかけるべきでしょう。
それは、自らが35年間の医大新設ストップの厚き国の壁を破った責任としてもと思います。

2.「県内医師のアンケート」より 「医大新設は公立で」が多数(資料3

この世論を呼び起こすきっかけになるようにと、宮城県医師会の会員の1/4を対象にアンケート調査を今年3月に行いました。
回答率は35%でした。
医師以外には、東北大学医学部の全教授と被災地中心に勤める保健師60名も含まれます。
回答270人中、医大新設に反対が147で賛成の112を上回りました。
しかし、反対する方の理由で多いのは、「医大を作っても被災地や、東北の過疎地にゆかない」から反対だとの意見が99件ありました。
これは「被災地や過疎地の受け入れ条件をつくれば必ずしも反対ではない」とも解釈でき「絶対反対」は少なくなり、この条件付き賛成を加えると78%と多数になります。
このアンケートで明らかになったのは、

医大新設は必要であるが
医師が定着するような地域の受け皿を整備することも重要であることを語っています。 
また 新設反対者も含めて「新設するとすれば国公立で」が67で私立の37を大きく上回りました。
大事なことは
新設準備の進め方が閉鎖的、情報不足など医療関係者にとっても不透明であることにいら立っている指摘も少なくありませんでした。

以上結果からいえることは、医師会や、医学部関係者が「医大新設反対」と声明を発している中でも、現実は関係者の中でも十分な論議がされていないということです。
ここで、地域の受け皿をどのように作るのかが、地方自治体や私たち住民の課題でもあります。
この点からしても、東北地方及び宮城県内の地方の医師対策のための地域の受け皿を整備する責任が、県及び地方自治体に問われています。
つまり、そこまでを視野に入れた検討が「医大新設」の政策に求められているということです。

3.「宮城県の財政力はないのか」

県当局の試算によれば、医学部建設費用(イニシアルコスト)に400~500億円(キャンパス+附属病院)とされます。
これは47年償却で年間10億円に相当します。
また年間の医学部運営費用(ランニングコスト)は60~70億円(ただし地方交付税措置で100人定員で10~20億円)とされています。
この試算からすれば、年間最低で40億円最大で70億円とされます。これは当県の年間予算の1%以内に十分収まります。
村井県知事が、震災復興期の大きな2つの課題の一つに「医学部新設」を掲げていることからすれば、県自身が本腰を入れて「県立医大」つくりに踏み込むべきではないでしょうか。

国は、復興予算を充てるのは知事の裁量範囲と述べています。

「当県より財政規模の小さい奈良県、和歌山県にも県立医大あり」

全国に県・市立医大は8大学あります。
うち当県より人口や財政力の4~6割で規模の小さい2県(奈良、和歌山)に県立医大があります。
隣の福島県は県立医大には、年間の運営費として70億円を助成していますが、県立医科大学があることによって、自県出身者への優先入学枠や、学資の優遇措置などを設けることによって、県立病院や地域の病院への医師配置を計画的に進めることを可能としています。

【表1】1医大当たり人口を比較
人口(千人) 医大数 1医大当たり人口(千人) 宮城県に新設医大1(人口千人)
宮城県 2,348 国立 1 2.348 1,174
合計1
東北6県 9.337 国立 4 1,556 1.334
県立 1
市立 1
合計6
京都府 2,636 国立 1 1,318  
府立 1
合計2
岡山県 1,945 国立 1 972  
私立 1
合計2
奈良県 1,400 県立 1 1,400  
合計1
和歌山県 1,002 県立 1 1,002  
合計1
香川県 995 国立 1 995  
合計1
鳥取県 588 国立 1 588  
合計1
全国 128,057 合計79 1,620 1,600

4.「医大の構想には柔軟性が求められている」

医師会の反対理由には、今日の人口減少により将来の医師過剰があります。
医大新設申請の条件に「○年後に規模縮小計画」を盛り込むとあり、私大では対応が困難と思われます。

【資料1】学費比較 6年間

●6年間の必要最低の学費

岩手医大(私大)3,400万円>福島県立医大(非自県民)406.08万円>福島県立医大(自県民)355.7万円>東北大医学部(国立)349.68万円

 

岩手医科大学

福島県立医大
(福島県民)

福島県立医大
(県民以外)

東北大学
医学部

入学金
(入学年)
21,750,000 817,800 1,381,800 282,000
年学費 1,895,000 446,500 446,500 535,800
6年間総額費 31,225,000 3,557,000 4,060,800 3,496,000
*但し 岩手医科大学の入学金には、初年度の授業料等も含まれている。
【資料2】医学部新設なら「県立」での根拠 私大は将来「開業医」が多くなる
1)卒業後(21年~26年経過)の就業先の比較では
開業(平均)比率は、岩手医大49%(38~64%)>福島県医28.5%(21~38%)>東北大18%(16~24%)
個人開業は都市部定着する傾向。
地元県内への定着は、福島県医大>東北大医学部>岩手医大
2)卒後の各大学の特徴
東北大医学部:
県内と東北圏の研修病院に行き4、5年目から自大学に戻る傾向。
その後は、宮城県内と東北圏に定着する。
岩手医大:
卒後3年まで岩手県内と東北圏の研修病院へ行き、4年目から自大学へ戻る傾向あり。
東北圏の病院や大学に入るのは15%ほどおり、将来その地区に定着する傾向にある。
東北圏域以外の出身者は、他圏域の大学に専門研修に入り将来は、その他圏域に定着している。
福島県医大:
卒後5割の医師は県内の病院か大学での研修に入る。
初期研修後の自大学へ戻る傾向は強くない。
東北圏の病院、大学への参加は、岩手医大、東北大 に比して少ない。
大学に残った人々は、将来的には、福島県内で勤務医や開業医と して定着している。
卒後、東北以外の圏域に出るのは(30%)おり、他圏域の大学 に入る医師が多い特徴がある。
その将来は、その他圏域に定着していると思われる。この点は、岩手医大と類似した傾向にある。
【資料3】医学部新設に関するアンケート

実施:2014年3月3日〜3月10日
回収:2014年4月1日現在
実施: 東北地方医療・福祉総合研究所

賛成

反対

意見無し

合計

112人 147人 11人 270人
 

賛成

反対

意見無し

合計

県立 私立 国立 不明 どれでも 小計
開業医 21 17 2 2 6 48 68 6 122
勤務医 14 13 3 3 33 53 3 89
教研 4 1 5 11 16
勤務元 4 2 6 7 13
開業医元 1 1 1 3 3
教研元 1 1 1 3 6 1 10
保健師 7 1 8 8
保健師元 2 1 2 1 6 1 7
不明 1 1 2
合計 54 37 9 2 10 112 147 11 270

*宮城県医師会名簿から4人に一人あてにランダムに抽出、医学部教授は全員を対象とした。
*教研:東北大学医学部教授、教研元:元医学部教授
*保健師は、被災地沿岸部中心に60名に送付した。

新設反対者の反対理由(選択複数回答)
理由

人数

被災地や東北地方の医師対策にならない
99人
すでに医学部定員を増やしているから
77人
将来の医師過剰が心配
49人
現在の医師養成制度に懐疑的
36人

【分析】

アンケート発送759通に対する回答は270件、35.6%であった。
医学部新設反対は54.4%で過半数を超えた。
しかし反対の理由に、被災地や東北地方の医師対策にならないを理由にあげたのが99件あった。
これは条件付き「賛成」とも取れる。
新設賛成は41.5%であるが、反対のうちの上記の条件付き「賛成」を加えると78.8%であり多数となる。
作るなら県立が52、国立9と国公立を望んでいる。
反対者の中でも自由記載に作るなら国公立指示が8件もあり、合わせて69件で私立37の2倍近い。
条件付きの内容は、被災地や東北地方への就業の動機づけの教育や、地方の研修病院の整備、地方病院の勤務条件の整備、地方に居住する価値等を含めた改善・解決を求めている
教育者返答の26人では、新設反対が16件61%と多数を占めている。
自由記載では、基礎医学の教員確保などの困難さや教育現場づくりの難しさを述べている。
新設の進め方については、情報が少ないこと、一部の関係者のみで進められていることや、議論の場が閉ざされていることへの批判の意見があり、オープンな論議の場を求めている。
医学部新設に対する資料はこちら→
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