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宮城県における保育士不足の実態把握と
保育政策の課題

〜保育士が生き生きと働き続けられる魅力的な職場にするために〜 宮城県民間保育園経営勉強会保育政策検討会

問題と目的

2014年施行、15年実施の子ども・子育て支援新制度への変更により、わが国における乳幼児保育・教育の現状は文部科学省所管の幼稚園、厚生労働省所管の保育所の二元化から内閣府所管の認定こども園を含む三元化の体制へと動いてきている。
さらに保育所入所待機児童解消対策として小規模保育事業所、事業所内保育所の他、企業主導型保育事業所などの設置が推進されてきた。
ところが、2,3年の経過において保育現場では保育士を募集しても応募者が少なく、保育に支障を来す状態が発生してきている。
特に従来からの民間の認可保育園や公立から民営化した保育園において顕著である。
保育士が少ないために定員を充足させることが困難となっており、定員を削減せざるを得ない。
そのために、0,1歳児の待機児を生むという悪循環が生じている。
また一時保育や休日保育を中止せざるを得ない状況をもたらしている。
既に全国民間保育園経営研究懇話会から保育士確保のために、賃金、職員配置、労働時間等の処遇改善の要望書が内閣総理大臣・厚生労働大臣宛に提出(2018・10・5)されてきた。
研究分野での動向では、保育士不足に対する保育士の賃金の影響という視点から国内外における資料に基づいた日本の実態が比較的に明らかにされている。
そこでは、近年の幼保一体化政策において幼稚園教諭と保育士との間の賃金格差が生じ、両資格取得の保育者がより賃金の高い幼稚園に流れていること、処遇改善費加算が実施中とはいえ、他の専門職種と比較しても賃金水準が低いこと、そして賃金を根幹とする労働条件は保育の質を左右する要因として不可欠であると指摘されている。(1)
さらに「あいち保育労働実態調査プロジェクト」による愛知県内の保育施設労働者、1万646人(正規・非正規)の回答者による大規模な調査結果が保育労働の実態について示唆を提供している。
愛知調査は2016年頃からの待機児童への対策として定員増を進めた結果生じた保育士不足問題に端を発していたが、保育士の労働条件として賃金のみならず、労働時間と時間外労働の問題等に亘る働き方について調べ、保育士の確保困難の原因を結びつけた展開となっている。
本来、保育士の専門業務である活動計画立案・まとめ等の準備や記録の時間が時間外になる、休憩時間が取れない等の実態が明らかにされている。(2)


本調査研究では、先行研究に学びながら保育士不足の要因に賃金等の処遇が影響していることを想定しながらも、他の勤務条件等の要因との輻輳的な関わり要因を想定する。
不足は保育施設の定員増ではないにも拘らず現職者が退職・離職をすることによって生じており、求人に対しての応募者が充当されないために生じる現象である。
そこで東京都や仙台市が実施している「保育士の退職状況の実態」調査等も参考に、(3)宮城県内の保育施設における保育士不足の実態を途中退職・離職者数とその勤務期間、理由・要因及び対応・対策等を探ることを通して明らかにする。
併せて保育士養成校における資格取得者の卒業後の進路とその選択の理由等を把握しながら、保育士確保の困難な要因の一端に迫りたい。
若い彼ら・彼女たちが資格取得過程や研修を通してどのように保育の仕事への関心や意義を育んでいくのか、保育士たちが生き生きと輝いて長く働き続けたい職場づくりをいかに進めるか、そのためにどのような保育政策が求められるか等を課題として検討し、以って保育の質向上と乳幼児の発達保障のための示唆を得ることが目的である。
以下の仮説を明らかにすることにより目的に迫りたい。

仮説:

(1)
保育士の退職・離職理由は賃金等の処遇の低さに影響されているだろう。
公立保育所において比較的離職者は少ないだろう。
(2)
退職・離職理由には、体調不良、職員間関係の弱さ、保護者との関係の困難さ、園の方針との不調和、業務量の多さなどストレスによる影響が多いだろう。
(3)
女性の多い職場として、結婚・転居・介護など家庭の事情による離職理由が目立つだろう。
保育職が専門の業務としてよりも家庭の補佐的役割とみる保育観・職務観の影響が根強いだろう。
(4)
他園への転職、他業種への転職が前記(1)および(3)との関連でみられるだろう。
それは保育職自体を否定する故とはいえないだろう。
(5)
勤務期間は公立および社会福祉法人では比較的長い(3年以上)が、小規模保育事業や事業所内保育事業では短い(1年)だろう。
(6)
離職・転職を軽減・防止していく上で、処遇改善は重要であろう。
同時に職員間の相談できる信頼関係づくり、職務への生きがい・喜びを分かち合える職場の仲間づくりが求められよう。
(7)
養成校における学生の職業選択肢として、保育への夢・生きがいよりも処遇の要求水準が高いだろう。
出身地元での就職は、奨学金等の支援によって卒業後の就職先が保障されているであろう。
(8)
保育新制度・政策の導入によって認定こども園等への就職が増えているだろう。
処遇、業務量、先輩の存在などが就職先の選択へ影響しているであろう。
(9)
大学の養成校では、処遇条件の評価により保育職よりも他職種、一般企業への就職者が増えているだろう。
(10)
離職後の対応について養成校では組織的に期待できる状況ではないかもしれない。
むしろ教員との個人的連携においての可能性、個人の意欲・熱意に依拠しているだろう。
それ故、保育施設における臨時職員、非正規職員(特に年度途中)の求人への対応は難しいだろう。

方法

質問紙による調査:宮城県内637施設の保育所(園)長・主任保育士を対象に、2016年度から2018年度の過去3年間の離職者についての質問紙調査(過去3年間の離職者数、離職の理由、勤務期間、予防策等)を実施した。
実施期間:2019年7月~9月(資料1質問紙調査用紙添付)
宮城県内の保育士養成校対象の聞き取り及び質問紙調査:宮城県内の13の養成校の就職課長対象に質問紙(過去3年間における就職先の地域、施設形態、就職先選択の重視点や傾向、ガイダンスのあり方、離職後の対応や離職への影響等)を送付実施した。 なお、そのうち3校へ訪問し質問紙内容の聞き取り調査を実施した。
期間:2019年7月~10月(資料3質問紙調査用紙添付)
宮城県内の保育士養成校対象の聞き取り及び質問紙調査:宮城県内の13の養成校の就職課長対象に質問紙(過去3年間における就職先の地域、 施設形態、就職先選択の重視点や傾向、ガイダンスのあり方、離職後の対応や離職への影響等)を送付実施した。
なお、そのうち3校へ訪問し質問紙内容の聞き取り調査を実施した。期間:2019年7月~10月(資料3質問紙調査用紙添付)

結果と考察

保育所を対象とする離職に関する質問紙調査の結果

-1 調査対象

宮城県内の全保育所637施設に質問紙を配布して、保育所(園)長、主任保育士から回答を得た。回答数306通(回収率48.0%)。
回答を得た設置地域を見ると、仙台市128施設(311施設配布)、仙台市以外の市138施設(257施設配布)、町38施設(69施設配布)である(表-1)。
調査対象の種別で見ると、公立保育所98施設、社会福祉法人129施設、認定こども園14施設、小規模保育事業61施設、事業所内保育事業2施設である。
設置地域と種別をクロスしてみると、公立の割合が、仙台市30.5%、仙台市以外の市32.6%、町36.8%であり、都市部より町の方が公立の比率が高いことがわかる。
なお、聞き取り調査の対象は、公立保育所5ヶ所、社会福祉法人保育園11ヶ所、認定こども園、学校法人、小規模保育事業を合わせて4ヶ所の計20ヶ所である。
結果を①保育施設の現状 ②離職状況 ③離職への対応策 ④その他(その時期には保育料の無料化に伴う徴収について他)の項目についてまとめた。
聞き取り調査の結果は資料として添付し、質問紙調査結果と併せ、また補足しながら考察していく。

【表-1】調査対象(設置地域と種別のクロス)
  種別
地域   公立 社福(民認) 認定こども 小規模 事業所内 全体
仙台市

施設数

39 58 7 24 0 128
仙台市(%) 30.5 45.3 5.5 18.8 0 100
全地域(%) 12.8 19.1 2.3 7.9 0.0 42.1
仙台市以外の市 施設数 45 53 7 31 2 138
仙台市以外の市(%) 32.6 38.4 5.1 22.5 1.4 100.0
全地域(%) 14.8 17.4 2.3 10.2 0.7 45.4
施設数 14 18 0 6 0 38
町(%) 36.8 47.4 0.0 15.8 0.0 100.0
全地域(%) 4.6 5.9 0.0 2.0 0.0 12.5
全地域 施設数 98 129 14 61 2 304
全地域(%) 32.2 42.4 4.6 20.1 0.7 100.0

質問紙調査対象を設置主体でみると【表-2】、
公立保育所118施設、社会福祉法人87施設、学校法人16施設、NPO法人7施設、株式会社55施設、個人経営12施設、一般社団法人5施設、宗教法人1施設である。
仙台市の公立は保育所であるが、他市・町の公立には認定こども園他を、また株式会社には小規模保育事業他を含んでいることがわかる。

【表-2】調査対象(設置地域と設置主体のクロス)
  種別
地域   公立 社会 学校 NPO 株式 個人 一般 宗教 全体
仙台市

施設数

37 39 9 2 30 3 5 1 126
仙台市(%) 29.4 31.0 7.1 1.6 23.8 2.4 4.0 0.8 100.0
全地域(%) 12.3 13.0 3.0 0.7 10.0 1.0 1.7 0.3 41.9
仙台市以外の市 施設数 65 40 4 3 18 7 0 0 137
仙台市以外の市(%) 47.4 29.2 2.9 2.2 13.1 5.1 0.0 0.0 100.0
全地域(%) 21.6 13.3 1.3 1.0 6.0 2.3 0.0 0.0 45.5
施設数 16 8 3 2 7 2 0 0 38
町(%) 42.1 21.1 7.9 5.3 18.4 5.3 0.0 0.0 100.0
全地域(%) 5.3 2.7 1.0 0.7 2.3 0.7 0.0 0.0 12.6
全地域 施設数 118 87 16 7 55 12 5 1 301*
全地域(%) 39.2 28.9 5.3 2.3 18.3 4.0 1.7 0.3 100.0

*施設属性に不明な点がある回答が5件あり、回答施設の総数は306件であった

-2 調査結果

(1)離職状況

2016年度から18年度の過去3年間の離職者数は813人であり、一施設あたりの平均離職者数は2.68人である。
離職者数と設置主体をクロスしてみると(表-3)、公立保育所の平均離職者数が0.91人に対して、社会福祉法人4.95人、学校法人2.81人、NPO法人1.71人、株式会社3.29人、個人経営1.76人、一般社団法人2.00人である。
公立の離職者数が他の設置主体と比較して少ないことが際立っている。

【表-3】離職者と設置主体のクロス
   設置主体
公立 社会 学校 NPO 株式 個人 一般 宗教 全体

平均離職者数(%)

0.91 4.95 2.81 1.71 3.29 1.76 2.00 2.00 2.68
離職者数 109 431 45 12 181 23 10 2 813
施設数 119 87 16 7 55 13 5 1 303

離職者数と設置地域をクロスしてみると(表-4)、仙台市の平均離職者数が3.59人、仙台市以外の市2.14人、町1.50人であり、都市部の離職者数が多いことがわかる。
しかし、前述のように、公立の離職者は少ないので都市部の民間施設において離職者が多いことを示している。
少なくとも、2015年4月にスタートした「子ども・子育て支援新制度」に基づいて幼保連携型の認定こども園や小規模保育事業等の認可園が増設され、同時に企業主導型保育事業等の多様な経営主体が保育業界に参入してきている。
待機児童対策とは言え、施設の増設に関わっての勤務条件の違いが保育士の異動退職を促す要因になってきていたと考えられる。

【表-4】離職者数と設置地域のクロス
   設置主体
仙台市 仙台市 以外 全体

平均離職者数(%)

3.59 2.14 1.50 2.67
人数 459 295 57 811
園数 128 138 38 304
【表-5】勤務年数
人数 791
平均値 5.7
中央値 3
最頻値 1
標準偏差 7.9

離職者の当該施設での勤務年数は、全体では平均5.7年であるが、中央値が3年、最頻値が1年である【表-5】。
離職者の勤務年数をみると【図-1】、1年以内24.1%、1年1ヶ月から2年以内20.1%、2年1ヶ月から3年以内13.3%、3年1ヶ月から4年以内8.7%、4年1ヶ月から5年以内6.2%と減り続ける。
離職者の勤務年数を累計してみると、就職してから1年までの離職者が24.1%、2年までに44.2%、3年までに57.5%、4年までに66.2%であり、3年までに過半数となり、4年までに3分の2が辞めている。
早期離職の傾向が顕著であることがわかる【図-1】。なお、ここでの勤務年数は通算ではなく、当該施設における勤務の年数を指している。

【図-1】離職者の勤務期間(年単位)

離職までの勤務期間と種別をクロスしてみると【表-6】、公立保育所が151.6ヶ月(12.6年)であるのに対して、社会福祉法人50.9ヶ月(4.2年)、認定こども園41.9ヶ月(3.4年)、小規模保育事業70.1ヶ月(5.8年)、事業所内保育事業48.0ヶ月(4.0年)であり、 公立保育所の勤務年数が長いことが際立っている。
社会福祉法人からの離職者がその理由に、「書類書きが多い」をあげて小規模保育事業へ転出したところ、逆に主任やフリー保育士の配置がない小規模の処遇の悪さに気付いて離職へ、と繋がっている例もある(聞き取り資料F保育園)。
認定こども園や事業所内保育事業では、新施設として設置されてからの年数が短い施設が大半であるので、勤務期間も自ずとその範囲に内にとどまることを考慮する必要がある。

【表-6】離職者と設置主体のクロス
   種別
公立 社福(民認) 認定こども 小規模 事業所内 全体
平均月数 151.6 50.9 41.9 70.1 48.0 66.3
人数 95 460 64 165 6 790
標準偏差 159.3 64.9 56.6 103.7 44.3 95.1

勤務期間と設置主体をクロスしてみると【表-7】、公立保育所184.7ヶ月(15.3年)に対して、社会福祉法人55.5ヶ月(4.6年)、学校法人60.2ヶ月(5.0年)、NPO法人26.6ヶ月(2.2年)、株式会社24.9ヶ月(2.0年)、 個人30.9ヶ月(2.5年)、一般社団法人101.3ヶ月(8.4年)、宗教法人49.0ヶ月(4.0年)であり、公立の勤務期間が長いことと、株式会社、NPO法人、個人が2年程度と短いことがわかる。
ここでは公立保育所の地域別結果を具体的に明示しないが、自治体の格差により仙台市への移動を希望するための離職が起こっている。
種別全体的にも、仙台市において勤務期間は比較的長いこととも関連している【表-8】。
聞き取り調査によると、仙台市における定年退職者の再任用やプール保育士体制等の特別施策が、人員確保へ一定の効果をもたらしていることがわかる。

【表-7】勤務期間と設置主体のクロス
   設置主体
公立 社会 学校 NPO 株式 個人 一般 宗教 全体
平均月数 184.7 55.5 60.2 26.6 24.9 30.9 101.3 49.0 66.4
人数 108 421 45 12 167 23 10 2 788
標準偏差 176.6 59.8 54.4 29.4 28.4 22.3 100.8 32.5 95.2

離職者の勤務期間と設置地域をクロスしてみると【表-8】、仙台市が70.1ヶ月(5.8年)、仙台市以外の市60.6ヶ月(5.0年)、町57.6ヶ月(4.8年)であり、仙台市においてやや長い。

【表-8】勤務期間と設置地域のクロス
   設置地域
仙台市 仙台市以外の市 全体
平均月数 70.1 60.6 57.6 66.2
人数 454 279 54 787
標準偏差 97.0 94.0 67.6 95.0

勤務期間と出身学校をクロスしてみると【表-9】、大学卒が57.5ヶ月(4.7年)、短大卒が67.9ヶ月(5.6年)、専門学校が74.1ヶ月(6.1年)であった。
なお、専門学校には旧宮城県立保育専門学院が含まれている。

【表-9】勤務期間と出身学校のクロス
   出身学校
大学 短大 専門学校 その他 全体
平均月数 57.5 67.9 74.1 19.0 66.6
人数 166 410 190 10 776
標準偏差 66.1 97.6 109.3 13.9 94.5

勤務期間と新卒・既卒をクロスしてみると【表-10】、新卒者の平均勤務期間は92.4ヶ月(7.7年)に対して、既卒者は52.9ヶ月(4.4年)であり、新卒者の方が長いことがわかる。
ここでは、新卒とは養成校を卒業後最初に勤務した所に勤務し続けている場合で、

【表-10】勤務期間と新卒・既卒者のクロス
   設置地域
新卒 既卒 全体
平均月数 92.4 52.9 66.2
人数 265 504 787
標準偏差 118.3 76.8 95.0

既卒は他所での勤務経験者を指している。新卒・既卒の勤務期間を年単位で比較すると【図-2】、1年目に辞める新卒者13.2%に対して、既卒者30.6%である。
2年目も新卒者17.4%に対して、既卒者20.8%であり、既卒者が早期離職する割合が高いことがわかる。
3年目以降については、おおむね既卒者より、新卒者の割合の方が高くなる。
聞き取り調査によると、幼稚園から保育園に転職したものの、種々戸惑いを感じて退職し、再度幼稚園へ戻ったという事例があった(J保育園)。

【図-2】新卒・既卒者の勤務期間(年単位)

既卒者にとっては、それまでの経験や保育観・方法との隔たりを感じ、入職先の保育に同調することが難しいのであろう。
3年目以降に新卒者の離職が逆に多くなっている。

(2)離職状況

離職後の進路をみると【表-11】、別法人保育施設297人(37.6%)が3分の1以上と最も多く、次いで子育て・介護に専念122人(15.4%)、保育士以外の職101人(12.8%)と続く。
保育士以外への転職がそれほど多くないことがわかる。
同様に、離職後の進路を設置主体別にみた場合、別法人施設への就職は、公立が11.0%であるのに対して、社会福祉法人41.1%、学校法人34.2%、NPO法人33.3%、株式会社44.4%、個人56.5%、一般社団法人40.0%である。
公立が他の設置主体と比べて低い。保育士以外への転職も、公立6.4%に対して、社会福祉法人13.9%,学校法人23.7%、株式会社12.2%、個人17.4%、と公立が低いことがわかる。
もっとも、公立の場合は定年退職後の再任用あるいは民営化に伴う転出(仙台市)という道もあるが、働き方の条件整備の違いが影響していると考えられる。
今回、男女別の離職状況の設問を用意しなかったが、男性保育士が結婚のため処遇との関係を理由に離職(Q学校法人)した事例があった。
離職後の進路として2番目に多い「子育て・介護に専念」については、聞き取り調査において「保育士の仕事は続けたい」と思いながら、仕事との両立の困難さ故の離職と理解される。
保育所の開所時間が長くなり、6:45~19:15のうちの実働8時間勤務である(G保育園)。
準備や後片付けを含めた早番・遅番の勤務に対応できない事情が生じている。
そこで正職員が臨時職員を希望し、9:00~16:00の勤務に変更した事例もある(F保育園)。
求人する保育所側と求職者とのミスマッチ(勤務体制・時間等の相互調整のずれ)による保育士確保困難という事情が生じており、夕方の超勤が増える(B保育園)。
時間調整の困難や業務の多さを避けて小規模保育事業の園へ転勤したものの、「小規模園にはフリー保育士の配置が認められていない」という別の困難を抱えている(R小規模園)ことがわかる。

【表-11】離職後進路と設置主体のクロス
  設置主体
進路   公立 社会 学校 NPO 株式 個人 一般 宗教 全体
子育て・介護に専念 回答数 11 69 10 3 23 3 3 0 122
(%)* 10.1 16.6 26.3 25.0 12.8 13.0 30.0 0.0 15.4
保育士以外の職 回答数 7 58 9 0 22 4 1 0 101
(%) 6.4 13.9 23.7 0.0 12.2 17.4 10.0 0.0 12.8
別法人保育施設 回答数 12 171 13 4 80 13 4 0 297
(%) 11.0 41.1 34.2 33.3 44.4 56.5 40.0 0.0 37.6
同法人パート 回答数 2 6 0 0 1 0 0 0 9
(%) 1.8 1.4 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 1.1
不明 回答数 74 87 2 4 41 2 1 2 213
(%) 67.9 20.9 5.3 33.3 22.8 8.7 10.0 100.0 27.0
その他 回答数 3 25 4 1 13 1 1 0 48
(%) 2.8 6.0 10.5 8.3 7.2 4.3 10.0 0.0 6.1
合計 回答数 109 416 38 12 180 23 10 2 790
(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

*カテゴリー内での%

女性の多い職場における働き方の課題が多い事情を示している。
公立保育所においては離職者が少ない背景に、この点の働き方保障の実現が反映されていると考えられる。

(3)離職の理由

離職の理由を設置主体別に全体をみると【表-12】、体調不良と他保育所への転職が12.9%と最も高い。
人間関係、職員間の意思疎通や保護者との意思疎通に関するコミュニケーションの問題は、合わせると5.3%であり、処遇不満は3.7%、園の方針は3.4%と高くない。
設置主体個別にみると、公立は体調不良がもっとも多くて10.6%、他保育所への転職及び結婚転居が7.1%であり、処遇・園の方針・人間関係・結婚・妊娠等の離職は0%である。
残念ながら、離職理由不明45.1%と半数近い回答数が目立っている。
体調不良は全ての設置主体で高い比率を示しているが、社会福祉法人においては、他保育園への転職13.5%、保育園以外への転職が12.2%と高く、結婚転居が11.1%と続く。他の設置主体では転出、処遇、職員間・保護者との関係等の理由が目立っている。
聞き取り調査によっても、正規職員としての仕事(特に早番遅番出勤)と育児・子育て・家事等との両立上の困難を理由に退職し、勤務条件を替えていることがわかった。
また、保護者からの苦情対応や同僚職員との意思疎通がもとで体調不良による退職のケースもあり、若い保育士においてはメンタル面の弱さが指摘された(G保育園、K保育園、L保育所、O保育所)。
離職の理由を探ってみると、健康問題という単独の理由よりも勤務条件、運営、業務量など複数要因の連鎖・複合された結果であることがみえてくる。

【表-12】離職理由と設置主体のクロス
  設置主体
進路   公立 社会 学校 NPO 株式 個人 一般 宗教 全体
子育て 回答数 6 28 2 2 7 2 0 0 47
(%)* 5.3 6.0 4.3 11.8 3.4 8.3 0.0 0.0 5.3
介護 回答数 4 14 1 0 4 1 1 0 25
(%) 3.5 3.0 2.2 0.0 1.9 4.2 8.3 0.0 2.8
結婚 回答数 0 12 4 1 1 1 2 0 21
(%) 0.0 2.6 8.7 5.9 0.5 4.2 16.7 0.0 2.4
結婚・家事 回答数 1 16 1 0 4 2 0 0 24
(%) 0.9 3.4 2.2 0.0 1.9 8.3 0.0 0.0 2.7
結婚・転居 回答数 8 52 9 1 18 4 0 0 92
(%) 7.1 11.1 19.6 5.9 8.7 16.7 0.0 0.0 10.4
妊娠 回答数 0 15 2 2 6 1 0 0 26
(%) 0.0 3.2 4.3 11.8 2.9 4.2 0.0 0.0 2.9
体調不良 回答数 12 54 7 4 31 2 3 1 114
(%) 10.6 11.6 15.2 23.5 15.0 8.3 25.0 50.0 12.9
転職・保育士以外 回答数 6 57 9 0 13 1 1 0 87
(%) 5.3 12.2 19.6 0.0 6.3 4.2 8.3 0.0 9.8
転職 回答数 0 6 1 1 1 1 0 0 10
(%) 0.0 1.3 2.2 5.9 0.5 4.2 0.0 0.0 1.1
転職・他保育所 回答数 8 63 3 4 32 3 1 0 114
(%) 7.1 13.5 6.5 23.5 15.5 12.5 8.3 0.0 12.9
転職・認定 回答数 1 2 1 0 0 0 0 0 4
(%) 0.9 0.4 2.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.5
転職・小規模 回答数 0 32 2 0 9 0 0 0 43
(%) 0.0 6.9 4.3 0.0 4.4 0.0 0.0 0.0 4.8
処遇不満 回答数 0 15 0 1 16 1 0 0 33
(%) 0.0 3.2 0.0 5.9 7.8 4.2 0.0 0.0 3.7
人間関係 回答数 0 8 0 0 3 0 0 0 11
(%) 0.0 1.7 0.0 0.0 1.5 0.0 0.0 0.0 1.2
職員間意思疎通 回答数 3 9 1 1 13 0 2 0 29
(%) 2.7 1.9 2.2 5.9 6.3 0.0 16.7 0.0 3.3
保護者意思疎通 回答数 1 1 0 0 4 0 1 0 7
(%) 0.9 0.2 0.0 0.0 1.9 0.0 8.3 0.0 0.8
園の方針 回答数 0 19 1 0 10 0 0 0 30
(%) 0.0 4.1 2.2 0.0 4.9 0.0 0.0 0.0 3.4
業務量多い 回答数 1 8 0 0 0 0 0 0 9
(%) 0.9 1.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 1.0
その他 回答数 11 56 2 0 34 5 1 1 110
(%) 9.7 12.0 4.3 0.0 16.5 20.8 8.3 50.0 12.4
不明 回答数 51 0 0 0 0 0 0 0 51
(%) 45.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 5.7
合計 回答数 113 467 46 17 206 24 12 2 887
(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

*カテゴリー内での%

【表-13】離職理由と勤務年数のクロス
  勤務年数
進路   1年以内 1年1ヶ月以上
2年以内
2年1ヶ月以上
3年以内
3年1ヶ月以上
4年以内
4年1ヶ月以上 全体
子育て 回答数 7 7 6 4 23 47
(%)* 3.2 3.9 5.4 5.7 8.1 5.5
介護 回答数 4 4 2 4 9 23
(%) 1.9 2.2 1.8 5.7 3.2 2.7
結婚 回答数 2 2 6 5 6 21
(%) 0.9 1.1 5.4 7.1 2.1 2.4
結婚・家事 回答数 7 2 2 1 12 24
(%) 3.2 1.1 1.8 1.4 4.2 2.8
結婚・転居 回答数 6 23 11 18 31 89
(%) 2.8 12.7 9.8 25.7 11.0 10.3
妊娠 回答数 6 8 8 0 4 26
(%) 2.8 4.4 7.1 0.0 1.4 3.0
体調不良 回答数 56 18 13 1 21 109
(%) 25.9 9.9 11.6 1.4 7.4 12.6
転職・保育士以外 回答数 21 18 11 4 32 86
(%) 9.7 9.9 9.8 5.7 11.3 10.0
転職 回答数 3 5 0 0 2 10
(%) 1.4 2.8 0.0 0.0 0.7 1.2
転職・他保育所 回答数 30 23 19 7 30 109
(%) 13.9 12.7 17.0 10.0 10.6 12.6
転職・認定 回答数 1 1 0 1 1 4
(%) 0.5 0.6 0.0 1.4 0.4 0.5
転職・小規模 回答数 7 8 11 5 12 43
(%) 3.2 4.4 9.8 7.1 4.2 5.0
処遇不満 回答数 6 12 4 3 4 29
(%) 2.8 6.6 3.6 4.3 1.4 3.4
人間関係 回答数 2 2 0 0 4 8
(%) 0.9 1.1 0.0 0.0 1.4 0.9
職員間意思疎通 回答数 12 8 4 2 3 29
(%) 5.6 4.4 3.6 2.9 1.1 3.4
保護者意思疎通 回答数 3 2 1 1 0 7
(%) 1.4 1.1 0.9 1.4 0.0 0.8
園の方針 回答数 14 6 1 0 9 30
(%) 6.5 3.3 0.9 0.0 3.2 3.5
業務量多い 回答数 2 2 0 0 4 8
(%) 0.9 1.1 0.0 0.0 1.4 0.9
その他 回答数 26 28 13 9 33 109
(%) 12.0 15.5 11.6 12.9 11.7 12.6
不明 回答数 1 2 0 5 43 51
(%) 0.5 1.1 0.0 7.1 15.2 5.9
合計 回答数 216 181 112 70 283 862
(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

*カテゴリー内での%

さらに、離職理由と勤務年数をクロスしてみると【表-13】、体調不良は1年以内が25.9%を占めている。
その後、1年1ヶ月以上から2年以内が9.9%、2年1ヶ月以上3年以内が11.6%、3年1ヶ月以上から4年以内1.4%と減っている。
体調不良の問題が早期に現れることがわかる。上記の若手保育士の離職理由を裏付ける一端がみえる。
人間関係、職員間の意思疎通、保護者との意思疎通を合わせたコミュニケーションの問題と勤務期間をクロスしてみると、1年以内が7.9%、1年1ヶ月以上から2年以内が6.6%、2年1ヶ月以上3年以内が4.5%、3年1ヶ月以上から4年以内4.3%とやや減少している。
園の方針と勤務年数をクロスしてみると、1年以内が6.5%、1年1ヶ月以上から2年以内が3.3%、2年1ヶ月以上3年以内が0.9%、3年1ヶ月以上から4年以内0.0%と推移している。
早期に人間関係や園の方針とのミスマッチの問題が現れることが読み取れる。
処遇不満を勤務年数とクロスしてみると、1年以内が2.8%、1年1ヶ月以上から2年以内が6.6%、2年1ヶ月以上3年以内が3.6%、3年1ヶ月以上から4年以内4.3%と変化してきている。
現場の実情が解りかけた2年目に入る頃に処遇への不満が高まることがわかった。
新卒の若い保育士にみられるメンタル面の弱さは、聞き取り調査によると、学生時の実習期間中に現れており、養成校から「厳しい指導や総合実習を省いて観察実習、部分実習程度にしてほしい」という依頼もある(C保育園・M保育所)。
園長や主任年代のかつて求めていた保育者像と違ってきた昨今の実像を受け止めた上での対応が必要になっていることがわかる。
離職の理由では給料等の処遇不満よりも体調不良や人間関係等の心身状態の不安の方が多かった点では、当初の予想とのずれはあるが、東京都や仙台市の調査結果との共通性をみることができた。(3)

(4)離職防止の対策

離職防止策について、262施設から回答を得ることができた。複数回答が可能な結果をみると【表-14】、休暇取得82.8%、職員間のコミュニケーション82.4%、園長と職員のコミュニケーション74.4%が特に高い傾向を示している。
外部研修59.2%、処遇改善54.2%、事務時間確保53.8%、希望に沿ったシフト実施51.5%というような対応・対策が、過半数の園で行われている。
離職防止策と設置主体をクロスしてみると、「休暇取得」について、全体に高く80%以上の中で社会福祉法人は74.7%、「職員間のコミュニケーション」については、公立75.7%、社会福祉法人79.7%と差が少ないのに対して、 「園長と職員のコミュニケーション」については、公立83.2%、社会福祉法人64.6%と、公立が高く出る傾向がある。
「処遇改善」については、公立が32.7%に対して、社会福祉法人72.2%、学校法人90.0%、NPO法人60.0%、株式会社63.0%、個人50.0%、一般社団法人75.0%と差が顕著に見られる。
実際の処遇の違いが反映していると思われる。
「事務時間の確保」については、個人30.0%、公立40.2%に対して、社会福祉法人62.0%、学校法人80.0%、NPO法人60.0%、株式会社67.4%、一般社団法人75.0%と差が顕著である。
「事務の簡略化」については、公立34.6%に対して、他は50%前後であり、事務体制について公立との差がみられる。
「サービス残業防止」にはNPO法人と一般社団法人で高いが他は50%以下で抑えられている。
「相談体制の充実」については、公立83.2%、学校法人50.0%、株式会社56.5%に対して、他は30~10%と差がみられる。
「職場内研修」では各設置主体が50%前後で差はないが、「外部研修」では公立と一般で70%を超え、他は50%前後である。
「希望に沿ったシフト」については、公立、社会福祉法人、学校法人が50%未満で、他法人は70%以上と高い。
「若い保育士へのフォロー」に対しては個人、一般社団法人で低いが、設置主体間には差が少ない。

【表-14】離職防止策と設置主体のクロス
  設置主体
防止策   公立 社会 学校 NPO 株式 個人 一般 宗教 全体
職員間コミュ 回答数 81 63 10 5 42 10 4 1 216
(%)* 75.7 79.7 100.0 100.0 91.3 100.0 100.0 100.0 82.4
園長と職員のコミュ 回答数 89 51 7 5 32 7 3 1 195
(%) 83.2 64.6 70.0 100.0 69.6 70.0 75.0 100.0 74.4
職場内研修 回答数 54 37 5 2 23 4 2 0 127
(%) 50.5 46.8 50.0 40.0 50.0 40.0 50.0 0.0 48.5
外部研修 回答数 76 39 6 3 23 5 3 0 155
(%) 71.0 49.4 60.0 60.0 50.0 50.0 75.0 0.0 59.2
処遇改善 回答数 35 57 9 3 29 5 3 1 142
(%) 32.7 72.2 90.0 60.0 63.0 50.0 75.0 100.0 54.2
休暇取得 回答数 94 59 8 5 38 8 4 1 217
(%) 87.9 74.7 80.0 100.0 82.6 80.0 100.0 100.0 82.8
事務時間確保 回答数 43 49 8 3 31 3 3 1 141
(%) 40.2 62.0 80.0 60.0 67.4 30.0 75.0 100.0 53.8
事務の簡略化 回答数 37 42 5 3 27 5 2 0 121
(%) 34.6 53.2 50.0 60.0 58.7 50.0 50.0 0.0 46.2
サービス残業防止 回答数 46 37 5 4 21 5 3 0 121
(%) 43.0 46.8 50.0 80.0 45.7 50.0 75.0 0.0 46.2
若い保育士へのフォロー 回答数 56 33 6 2 26 3 1 0 127
(%) 52.3 41.8 60.0 40.0 56.5 30.0 25.0 0.0 48.5
希望に沿ったシフトなど 回答数 48 36 4 5 32 7 3 0 135
(%) 44.9 45.6 40.0 100.0 69.6 70.0 75.0 0.0 51.5
相談体制の充実 回答数 89 17 5 1 14 1 1 0 128
(%) 83.2 21.5 50.0 20.0 30.4 10.0 25.0 0.0 48.9
その他 回答数 0 1 0 0 3 0 1 0 5
(%) 0.0 1.3 0.0 0.0 6.5 0.0 25.0 0.0 1.9
合計 回答数 107 79 10 5 46 10 4 1 262
(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

*カテゴリー内での%

離職防止対応・対策として寄せられた意見は、①職員・園長との関係づくりや相談・支援体制の充実、②働き方の改善a:休暇取得・研修の機会、③働き方の改善b:処遇改善・休憩時間の確保・職務内容と勤務時間の改善の3点に大別される。
①の職員間の関係づくりや相談・支援体制の充実において相談体制は公立において充実している。
②aの休暇の取得や職場内研修については設置主体別に対応の差は大きくないが、③bの働き方、特に処遇改善、職務内容と関わる時間確保において重みづけの順位が異なっている。
即ち、公立保育所を除く他の設置主体では、③bの働き方の改善がより切実に求められている。
公立保育所では保育士確保に関わる働き方の条件が比較的に整備されていることがわかった。
次に、公立保育所における聞き取り調査結果を参照する。

等の対応をしている。自治体により相違もあり、より処遇条件の良い都市へ移動する傾向があるものの、公務員体制における処遇の保障が他の設置主体との勤務条件の違いをもたらし、結果的に離職者の少なさを反映していると考えられる。
もっとも、自治体の保育担当者の見解によると、「少子化現象により将来の保育需要に見通しがつかない、保育需要があるにしても今後公立保育所としての新築や建て替えは考えられず、正規保育士の採用を躊躇している」とのことである。
子ども・子育て支援新制度発足後の保育サービス増は、保育士たちの働き方に異変をもたらしたと考えられる。
運営費の加算があるとはいえ、新制度発足以前から民間保育園では一時保育、休日保育、障害児統合保育、病児保育、時間延長保育の他、地域子育て支援等のサービスを担ってきている。
休憩時間の保障や有給休暇の確保に現場では苦慮している。
子どもの午睡の時間帯に、子どもの様子を観ながら自身の昼食を取り、日誌や保護者への連絡等を書くことが常態化しており、保育現場から離れての休憩時間を確保することの困難さがある。
離れるためには交代要員が必要となるが、長時間保育の交代シフト制という人員に余裕のない中で現場を離れることの難しさがある。
日誌等の書類を出来るだけ簡素化するという工夫もされているが、職務内容として何が大切か、優先されるべき記録時間は勤務時間内の業務としてしっかり保障されなければ、保育の質・子どもたちの発達保障が危ぶまれることになりかねない。
こうした現状において民間保育施設においても離職防止の取り組みがなされてきている。
聞き取り調査資料によれば、

① 処遇改善策として:
  • 3年以上の勤務希望者に20万円の支度金を支給する(3年勤務に不安があり希望者は少ない)(C保育園)
  • 有給休暇を月1回、7~9月に3日の夏季休暇取得可能(D保育園)
  • 誕生日休暇の設定(F保育園)・大卒者の給与を高くする(I保育園)
  • 職員がほぼ全員揃う機会を持つことも難しくなっている現状の中で、全職員が揃ったら(10;30頃)、交代で40分ずつ子どもから離れる時間をつくり、教材準備等に充てる工夫をしている(E保育園)
  • 休憩時間の取得が困難のために15分程度早い退勤を認めている
  • 時間外の会議を設定しない(Q保育園)
  • 欠員後の対応策として、定年の延長(60歳を65歳まで)(C保育園)
  • 臨時職員やパート職員の採用(B保育園)
  • 派遣会社からの紹介で採用する、しかし紹介料の負担が大きい(D保育園)
  • 休憩時間や有給休暇の取得ができるように配慮する(D・E保育園)
  • 子育て中の保育士は正規職から臨時職に変更して勤務(B保育園)
  • 未満児24名を18名のクラスにして、1名の保育士をフリーにした(B保育園)
  • 一時保育を休止して保育士をクラス担任へ(K保育園)
② 職員間関係づくり策として:
  • 職員間の関係性を保持することの難しさ、また保護者と14の信頼関係を築くことの難しさを乗り越えるべく、園長を中心に関係交流を重ねながら定着への対応について工夫をしている(H・I保育園)
  • 新卒の保育士を支える仕組みとして先輩保育士や担当職員を配置し、基本的な業務を指導する(J保育園)
  • 保育園でトラブルの起こりそうな事例について、園長自らが園の方針を明確に保護者へ伝えることで、トラブルを少なくしている(S認定こども園)

質問紙自由記述欄に寄せられた意見によると、「必要配置保育士数よりも多い保育士を雇用し、シフトが回り易いようにすることで、保育士一人当たりの負担軽減を図っている(実際、残業は殆んどない)。
有給休暇も時間単位でとれるようになっており、園児の降園に合わせて早目に保育を切り上げる、事務作業等もない場合は積極的に有給を使用している。
また、クラス担任が行いたい保育活動を積極的に取り組めるように、園として環境や雰囲気づくりに心がけている(学校法人認可保育園)。」
また「保育が面白いと感じられるよう学習と実践を充実させる。
悩みを出し合い前向きに支え合い、学び合う関係づくりを進める(社会福祉法人保育園)。」
研修や職員関係で求められているのは、行政からのトップダウンの伝達で満足するのではなく、職員一人ひとりの意思が活かされる交流関係と意思決定のプロセスを重視する共同体制づくりであることがわかる。
保育園の特色ある保育をアピールして保育方針に共感する保育士を採用した場合は、離職が少ないようである。採用時にやりたい保育を明確に持って応募することが望まれるし、保育の仕事が魅力的な仕事であることを園からもアピ-ルが必要であろう。

(5)国や自治体への要望

回答施設数198園である。複数回答を可とする国や自治体への要望についてみると【表-15】、国の処遇改善策が82.8%、配置基準の改善65.7%、公定価格引き上げ50.0%、の3点が半数を超えている。
特に、国の処遇改善を求める声が高いことがわかる。

【表-15】国・自治体への要望と設置主体のクロス
  設置主体
要望   公立 社会 学校 NPO 株式 個人 一般 宗教 全体
基準を上回る職員配置 回答数 15 20 2 0 12 3 2 1 55
(%)* 31.3 26.3 25.0 0.0 25.5 33.3 50.0 100.0 27.8
配置基準の改善 回答数 33 57 6 3 24 6 0 1 130
(%) 68.8 75.0 75.0 60.0 51.1 66.7 0.0 100.0 65.7
公定価格引き上げ 回答数 1 49 5 3 32 5 3 1 99
(%) 2.1 64.5 62.5 60.0 68.1 55.6 75.0 100.0 50.0
国の処遇改善策 回答数 33 66 7 5 40 7 5 1 164
(%) 68.8 86.8 87.5 100.0 85.1 77.8 125.0 100.0 82.8
キャリアアップ研修 回答数 13 30 1 3 25 5 2 1 80
(%) 27.1 39.5 12.5 60.0 53.2 55.6 50.0 100.0 40.4
その他 回答数 1 4 0 0 9 0 0 1 15
(%) 2.1 5.3 0.0 0.0 19.1 0.0 0.0 100.0 7.6
合計 回答数 48 76 8 5 47 9 4 1 198
(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

*カテゴリー内での%

業務内容が多岐に亘り、特に保護者への支援や地域子育て支援を含めて保育施設への社会的期待が大きい。
処遇が改善されるならば応募者が多くなるのではないか、教師並みにしてほしい(N保育所)、また災害時においても開所し、保育士は自分の家庭を顧みず出勤している。
そうした役割と任務を社会がどう評価するのか(S小規模保育事業所)という疑問・要望を重く受け止めなければならない。
東日本大震災時においては、高台までの避難に際して、3人の0歳児を1人の保育士が受け持ち、また一人歩きが覚束ない1歳児や2歳児6人を1人の保育士が無事に避難させることができたと報告されているが、(4)結果から配置基準は適切であると見做すのではなく、万全の安全を重視するならば保育士の配置はもっと手厚くすることが求められる。
様々な災害時において、保育所(園)は「原則開所」が前提とされ、避難基地の役割を担ってきている。
特に、地域住民の福祉の増進を理念としている社会福祉法人立保育園が担う業務は過重になっていることがわかる。
当調査では具体的な人員の配置基準について改善数値を求めていなかったが、長時間保育の現状にあって現行の設置基準(1968年一部改訂)では労働密度が高い。
従って、保育士たちの健康にも生活にも支障を来すことになる。
この点については離職理由から推察できる。
現在N公立保育所で実施している午睡補助員の配置による休憩時間の保障実現の要望(M保育所)などを考えるなら、自治体独自の補助を民間保育園に対しても、また他市町において実現されることが望まれる。
離職理由の中で、「体調不良」と「人間関係」を別項目として設定したが、聞き取りの結果と併せると人間関係の悪化が体調不良に繋がった事例もあった。
雑多な業務量の多さ故の疲労・ストレスを招く前に、職員間の関係づくりを、特に新卒の若い保育士への丁寧な支援・育成が求められよう。
彼ら・彼女たちが保育活動に魅力を感じ、将来的に生き生きと働くことができるためには、少なくとも最初の2,3年の期間に働きがいを感じてもらうことが重要である。
保育士の資格取得者がその専門的能力を発揮するためには、処遇改善が、特に民間の保育施設の運営費改善が望まれる。
公定価格を引き上げて、社会福祉法人あるいは小規模保育事業所と認定こども園や幼稚園という施設種別間に競争や分断をもたらす運営費格差は是正される必要がある(Tこども園:社会福祉法人園より運営費が高いので移行)。
少なくとも、運営費等の配分や労務がクリーンで平等であることが望まれる。
「処遇改善費が企業、法人に対してではなく、保育士に対して直接的な変化があればいい」という声は、「半分以上会社等の都合のよいようになっている」(質問紙自由記述:株式会社・小規模保育園)現実を伝えている。
乳幼児期の保育所保育は、養護と教育を一体的に行うことをその特性としているが、国や自治体の政策・予算措置に基づく施設の人的・物的・自然的環境条件における格差によって、同年齢期の子どもたちの発達保障にズレが起こりうるのは由々しいことである。
保育士相互のキャリアップ研修も「保育の質」向上に不可欠である。
人的に、運営費に余裕があるならば、キャリアアップ研修の機会を充実できよう。
しかし、研修の機会は必ずしも十分でない。
受講を希望しても、現場に欠員状態を生むことで躊躇する、また人数・時間・場所・費用の点でも制約が大きい。
研修費補助や時間・場所等の企画の検討が求められている。
長く働き続けられる希望の持てる保育園であるためには、処遇条件が安定的な公立保育所と同等の処遇が他の保育施設においても望まれる。
保育料の無償化に伴い、私立保育園では副食費の徴収が負担増となり、公立との業務差という問題を生んでいる。
「朝夕の職員配置に余裕が欲しい」(S保育園・P保育所)という意見・要望は、公・私保育施設 の保育士に共通する意見であり、配置基準の在り様を問う課題と理解したい。

保育士養成校における保育職への就職実態

-1 調査対象

宮城県内において保育士養成・資格授与をしている大学・短期大学・専門学校13校に対し、質問紙調査及び聞き取り調査を依頼した。質問紙の回収は5校より、聞き取りは3校において、 質問紙と聞き取り両方法対応は1校であり、7校からいずれかによる資料提供があった(53.85%回収率)。

-2 就職状況

各養成校において、当該学科の就職希望者の98~100%が就職している。
全養成校13校の定員総数が700名を超えており、回答のあった7校だけでも600名弱の保育士有資格者が毎年卒業している。
その内で保育界にはどのくらいの人員が、どのような思いを持って進出しているかを質問した。

(1)
2016年度から18年度卒業の3年間の就職実績は表-16a~gの通りである。 A校からF校の6校について、
2018年度の就職実績をみると、保育所への就職が全体の30~60%を占めており最も多い(A,B,C,E,F校)。
3年間の年次的変化においても保育所への就職は他の職種に比して多いが、年次的に約5~10%の減少・微減していることがわかる(A,E校)。
2018年度に保育所への就職が減少した分は、認定こども園また幼稚園で増加している(A,E校)。更に一般職への就職倍増が顕著である(A校)。
就職先の地域については県内が過半数を占めて多いが、保育所の 30%はは県外、その半数は関東圏へ就職していることがわかる。なお、一般企業への就職先は県外が増えている。
年度別の就職先にみられる増減、子ども・子育て支援制度に対する行政の方針が反映していると同時に、保育所における処遇等に課題があることを示していると考えられる。
【表-16a】A 校 職種別就職実績
A 校 2016年度 2017年度 2018年度
県内 県外 合計 県内 県外 合計 県内 県外 合計
保育所 32 14(8) 46 32 8(4) 40 21 7(6) 28
49.46% 45.98% 35.44%
幼稚園 14 5 19 16 3 19 10 3(2) 13
20.43% 21.84% 16.46%
こども園 5 0 5 5 1 6 6 4(1) 10
5.38% 6.90% 12.66%
小学校 3 6(4) 9 4 7(5) 11 7 1(1) 8
9.68% 12.64% 10.13%
一般 10 4(3) 14 7 4(3) 11 9 11(6) 20
15.05% 12.64% 25.32%
合計 64 29(15) 93 64 23(12) 87 53 26(10) 79

( )内数字は関東圏

【表-16b】
B 校 職種別就職実績(2018年度)
職種 人数 (%)
保育所(保育士) 39 (51.3)
幼稚園(幼稚園教諭) 11 (14.5)
こども園(保育教諭) 7 (9.2)
他の専門(児童指導員他) 8 (10.5)
一般(営業、事務他) 11 (14.5)
合計 76
【表-16c】
C 校 職種別就職実績(2018年度)
職種 人数 (%)
保育所 33 (41.8)
幼稚園 15 (19.0)
こども園 5 (6.3)
施設 6 (7.6)
小学校 7 (8.9)
一般 13 (16.5)
合計 79
【表-16d】
D 校 職種別就職実績(2018年度)
職種 人数 (%)
福祉施設 35 (20.7)
教員 89 (52.7)
公務員 9 (5.3)
一般 36 (21.3)
合計 169
【表-16e】E 校 職種別就職実績
E 校 2016年度 2017年度 2018年度
県内 県外 合計 県内 県外 合計 県内 県外 合計
保育所 53 15(7) 68 51 8(3) 59 39 4 43
(66.02) (59.60) (42.57)
幼稚園 23 23 28 2 30 28 7 35
(22.33) (30.30) (34.65)
こども園 4 6 10 4 4 8 15 5 20
(9.71) (8.08) (19.80)
施設 2 2 2 2 3 3
(1.94) (2.02) (2.97)
合計 82 21 103 85 14 99 85 16 101
【表-16f】F 校 職種別就職実績
F 校 2016年度 2017年度 2018年度
県内 県外 合計 県内 県外 合計 県内 県外 合計
保育所 7 1 8 16 1 17 24 6 30
(7.69) (17.0) (30.0)
幼稚園 1 1 2 1 1 2 2
(1.92) (1.0) (2.0)
こども園 1 1 1 1 2 1 3
(0.96) (1.0) (3.0)
施設 22 4 26 17 1 18 5 1 6
(25.0) (18.0) (6.0)
一般 31 36 67 32 31 63 26 33 59
(64.42) (63.0) (59.0)
合計 62 42 104 67 33 100 59 41 100
【表-16g】G 校 職種別就職実績
G 校 2016年度 2017年度 2018年度
県内 23(60.5) 45(61.6) 10(71.4)
県外・関東 0 8(11.0) 2(14.3)
県外・地元出身地 15(39.5) 20(27.4) 2(14.3)
合計 38 73 14

2018 年度で養成廃止 就職先職種の記載なし

(2)
就職実績の特徴・変化を養成校ではどのように受け止めているだろうか。
この点についての問いに対して各養成校の反応は次のようであった。
A 校の場合
B 校の場合
C 校の場合
D 校の場合
F 校の場合
G 校の場合

養成校として、実習園や先輩・卒業生が存在する職場を大切にしていること、処遇の点から公務員受験、首都圏への志向・広がりをほぼ共通に捉えていることがわかった。

(3)
就職先の選択に際して、学生たちが重視している条件について5段階で評定してもらった結果は【表-17】の通りである。
【表-17】就職先の選択条件としての重視
  A 校 B 校 C 校 D 校 E 校 F 校 G 校 平均
生きがい・夢 5 4 3 4 5 3 3 3.86
処遇(給与・賞与等) 5 5 5 5 3 5 5 4.71
休暇の取り易さ 5 4 5 3 3 4 4 4.0
勤務体制への配慮 3 4 3 3 3 3 3.17
職場の人間関係 5 4 4 4 5 5 4 4.43
立地地域、通勤の便 1 3 4 2 4 5 4 3.29
宿舎・家賃補助 4 5 3 4 5 4 4.17

以上のような学生たちの職場観の特徴を踏まえると、勤務先の条件が意に反することになれば離職へ繋がるのではないかと考えられる。
ただ安心の拠り所は職場の人間関係であり、そこに先輩の存在が大きい役割を担っていることがわかった。
求人する側の職場では、応募し易いように選抜の採用試験を控える場合が増えてきており、実習も厳しくないとすれば、入職後の業務内容への対応に違和感やギャップが生じるのではないかと懸念される。

(4)
在校生の進路ガイダンスにおいて卒業生とのコンタクトが有るかどうかについて養成校の対応を質問した。

7養成校の全部で、学科の授業科目の中にキャリアアップの時間を設けている。
単位化している大学もある。卒業生を講師として招き、体験談を語ってもらう、また実習の相談やアドバイスを担当してもらっている。
早期に離職した卒業生の事例も受け入れて、保育現場への理解を深めている養成校もある。

(5)
養成校として、卒業生が就職して以後の離職状況を把握しているかどうかを質問した結果は以下の通りであった。
A 校の場合
C 校の場合
E 校の場合
F 校の場合
G 校の場合

「把握していない」という養成校B 校とD 校では、就職担当係ではなく、学科の教員へ相談している場合が多いという反応であった。

(6)
保育士の早期離職が顕著になっていることについて、離職の原因や対策を考えているかどうかを質問した結果は、次の通りであった。

求人先が多い現状から転職の機会を前向きに捉えているようにみえる。離職の理由・原因については個別に対応していることがわかった。

(7)
卒業生に対する相談活動の有無について質問したところ、以下の回答があった。

養成校では相談活動を「行っている」のが一般的だが、取り組み方には違いがみられる。
事前に手続きを学生たちに連絡している所と相談があれば随時対応するという所もある。

(8)
保育士の離職に影響している事項について5段階で評価を依頼した結果は表-18のようであった。
養成校が捉える保育士の離職に影響する理由として最も評価が高いのは、「職場の人間関係」であった。全ての養成校において5の評価で最も影響していると捉えている。
次に影響の高い項目は「サービス残業が多い」であった。長時間に亘る勤務時間の現実に不安・懸念を持っていることがわかった。
「処遇が悪い」や「休暇が取り難い」についても比較的に影響が高いとみており、「時間外勤務」や「多忙・仕事がきつい」等と併せて、勤務条件を指摘する項目の評価が高い。
「子育てや介護」「配偶者の転勤」は離職の影響としては少ないと捉えているが、年齢的に想定し難いのかもしれない。
在学中に労働の基本的な法律や人権問題、ジェンダー平等について学習済みかは未確認であるが、職務内容と働き方について関心を持つことを期待したい。
【表-18】離職の際の影響項目の評価
  A 校 B 校 C 校 D 校 E 校 F 校 G 校 平均
処遇が悪い 5 4 4 5 3 5 4 4.28
多忙仕事がきつい 5 5 3 5 3 4 3 4
時間外勤務が多い 4 5 5 3 4 3 4
サービス残業が多い 5 5 4 4 4 4.40
休暇が取り難い 5 4 4 4 4 4 4.16
職場の人間関係 5 5 5 5 5 5 5 5
園の方針と合わない 4 4 4 4 3 5 4
子育てや介護 3 3 1 3 4 2.80
配偶者の転勤 3 5 1 3 4 3.20

まとめ

<仮説の検証結果>

先に、当研究の目的として10視点からの仮説を提示し、それらの点について調査結果を基に考察をしてきた。
現在、多くの保育施設において保育士を確保することが困難な事情を抱えている要因を明らかにし、保育施設や養成校で取り組んで欲しい課題、さらに自治体や国の施策として望まれることを提示するために検証結果をまとめる。

1)
保育士の退職・離職理由は賃金等の処遇の低さにあると想定したが、その点は予想に反して理由の中の5,6位であった。もっとも、公立以外の社会福祉法人立等では、1,2,3位に入っていたので、仮説は検証されている。 なお、保育士と全産業の賃金比較によると、宮城県の35歳前後では保育士(女性のみ)が月額3万円、年収で30数万円の低額であり、幼稚園教諭より月額2千円、年収で20数万円の低額である。(5)
2)
離職理由には体調不良、職員間関係・保護者関係などの困難があった。業務量の多さ、疲労によるストレスが人間関係を歪めてきていることが明らかとなり、検証することができた。
特に若い層・新人の保育士においてメンタリティの問題を抱え易い傾向が確かめられた。
3)
退職・離職の理由の中で、結婚・子育て・転居などが勤務期間の短い保育士たちにみられ、勤務期間が長くなるにつれて介護の理由が目立っていた。女性の多い保育という職場での働き方が現代社会の課題・矛盾を引きずっており、 家庭を補う保育観・職務観の影響が検証された。
ジェンダー平等実現に遠いことがわかった。
4)
保育の仕事に惹かれつつ、離職し、他業種へ転勤していることが確認され、上記1)及び3)の理由と共に検証された。
5)
離職するまでの勤務期間について公立と社会福祉法人立とを比較すると、後者が短い。
小規模保育事業所では1年と予想したが、それほどは短くない。公私施設における離職理由の違いと関連して予想と違い、公立が際立って長いことが明らかになった。
6)
職場で求められている課題は、職員間、保護者との信頼ある人間関係づくりであるが、身近な日常の工夫と共に、保育職の社会的意味づけ・役割の明確化とそれに見合う処遇の改善、制度、 最低基準の見直しが自治体や国の政策として求められており、この点についても検証された。
7)
養成校において、若い世代が保育への魅力を受け止められるような現場づくり・学び場が求められていた。出身地元への就職は奨学金等の支援によることが確かめられた。
保育士の処遇面、働き方の整備と保障が保育園志望者増への緊急の課題であることが検証された。
8)
子ども・子育て新制度・政策実施後に新卒者が認定こども園や幼稚園へ就職する傾向を強めていることが検証された。保育所の保育理念は「3歳児神話」を引きずった「子守り」役ではなく、「養護と教育を一体的に行う営み」の場として、 子どもの最善の利益を保障する役割を担う点にある。保育理念や社会的役割に副わない保育士の働き方が設置主体別の格差へ影響を与えていることが確認された。
9)
保育士資格保持者が処遇面を理由に保育職よりも他職種、一般企業へ就職する傾向が強まっていることを検証できた。保育職の理念や魅力を在学中に確認できるような保育職の条件づくりが、養成校と保育現場に求められていることを確認できた。
10)
離職後の対応について養成機関に依拠して保育士の派遣を期待するのは難しいことが検証された。
他方、保育現場における緊急の要請に応えるには、保育士が社会的機関の下でプールされることを望んでいた。
少なくとも、高額な斡旋料で派遣会社に依存せざるを得ないような現状は軽視できない。短時間の非常勤保育士の確保と共に、公的に保育士確保が保障されるような体制づくりと施策への要望が確認された。

<自治体・国への提言>

保育所(園)が保育士たちの生き甲斐、働き甲斐のある魅力的な職場であるためには、職員相互の協力、工夫と保護者や地域住民との直接的・間接的な関わりの在り様が重要であり、そのための努力があった。
同時に、保育所(園)の人的・物的・自然的環境条件はマクロな保育理念・制度・政策や基準の影響を受けている。そうした視点から課題解決のために自治体及び国の保育政策として望まれることを提示したい。

1. 保育士の働き方改善について
  • 私立保育園に働く保育士の処遇改善、特に賃金を公務員給と同等に是正する。
    少なくとも、保育園の公定価格を引上げて私立の設置主体間(保育園と認定こども園、幼稚園)の公定価格(賃金、人的配置等)に格差をつけないこと。
  • 事務量低減・休憩時間確保等のために保育士を増員する。当面は2019年度から国が予算化している保育補助員を配置すること。
  • 産休中の代替保障は実現しているが、産前の体調による休暇中の代替要員についても自治体独自に保障すること。
  • 保護者の働き方改善によって保育士の長時間保育も改善されることが望まれる。
    職員間や保護者との充実した関係づくりを実現するために、特に保育の質を確保し、園児たちの発達保障のために、設置基準を見直し増員を実現すること。
    待機児童の多い1,2歳児6人に保育士1人の配置基準に対しては、格別な配慮が必要である。
    また災害時の開園要請に対しても正当な評価が望まれる。
2. キャリアップ研修の保障について
  • 自治体主催の研修会への参加を保障するために、保育士の増員または保育補助員を配置すること。
  • 研修会参加のために開催場所や時間帯、回数を調整し、研修費を保障すること。
  • 若い新人保育士のための研修あるいは巡回指導体制を設けること。
  • 保育計画立案から実施経過と結果、反省の記録等は保育士の本務である。事務量の簡素化を図りながらも、職員同士が保育業務の意義・理念について確認し合い、乳幼児と保育士の育ちのために、平等に人的・物的条件の整備を保障すること。
  • 各保育施設の運営、保育方針等について主体的な取り組みを尊重すること。
3. 保育政策等の審議会・検討会について
  • 待機児童対策として諸保育施設が増設されているが、設置認可に際して地域の実態を把握して、既存施設で保育士確保が不利にならないように配慮すること。
  • 保育現場の実態を十分理解し、要望等を受け入れながら検討し、政策等に生かしてほしい。
    また検討経過の内容等を公開すること。
  • 保育士の処遇や施設の最低基準引き上げ等は自治体任せではなく、国の責任で進めるべきである。
    施設の設置や改善に際して大都市への一極集中を避けること。

おわりに

乳幼児が健やかに豊かに育つには、安全安心な人的・物的・自然的環境において直接的・間接的に関わり合って生活することが大切である。
保育施設において保育士不足が深刻化してきたのは、奇しくも子ども・子育て新制度が実施されだした2015、6 年頃からである。
幼保一体化に向けての制度改革は、逆に保育・教育施設を分断し、厚労省、文科省の他に国民の預かり知らぬ内閣府所管の企業主導型保育事業の出現を導いている。
保育所(園)は児童福祉施設とはいえ、子どもの育ちに関わる教育の場でもある。
子どもたちの豊かな発達を保障するための機関・施設とそこでの働き手が、平等に育ち合う権利を生かすことが必要である。
この度、宮城県内の保育施設における保育士不足の全容をほぼ理解することに至ったが、保育士たちの働きがいと課題を明らかにするためには、現役の、あるいは退役の保育士たちの直接的意見を聴取することが必要であったと思われる。
また正規職員のみならず、非正規職員の実態についても把握が必要であった。
それらの点の不十分さは残るものの、現場からの聞き取り調査結果を含めて、保育園(所)、保育士の現状及び保育士確保困難な状況における取り組みの実態と展望を一定程度明らかにすることができたと思われる。
自治体と国の保育・教育行政におかれては、本調査結果及び提言を真摯に受け止め、今後の保育施策、政策に生かしていただくよう切望する。

謝辞

本研究の質問紙調査並びに聞き取り調査に際して、仙台市並びに宮城県内の自治体及び保育施設関係者、また保育士養成校の就職担当者の方々に貴重な資料と時間を提供していただきました。
ご協力に深く感謝を申し上げます。

本研究は、東北地方医療・福祉総合研究所(多賀城市)よりの研究補助を受けて行われたものです。

<文献>

(1)
益山未奈子:日本の保育士不足に対する賃金の影響―政策動向及び米英の調査研究からの検討―、『保育学研究』第56 巻第3 号、45~53 頁、2018
(2)
蓑輪明子:愛知県保育労働実態調査から見る保育労働の現在
調査の経緯と時間外労働の実態 月刊『保育情報』№.502、2018.9
時間外労働で何の業務が行われているか 同誌№503、2018.10
正規保育労働者の生活実態と職業意識 同誌№504、2018.11
就非正規保育労働者の基礎的労働条件①労働条件と賃金同誌№506、2019.1
非正規保育労働者の基礎的労働条件②労働条件と改善要求同誌№507、2019.2
(3)
東京都福祉保健局:『東京都保育士実態調査報告書』令和元年5月
仙台市運営支援課・認定給付課:未公開
(4)
荒井美智子・野呂アイ・鈴木牧夫:防災保育と日常活動の課題-東日本大震災被災地域の保育者への訪問調査を基に―聖和学園短期大学紀要第56号平成31年3月
(5)
保育研究所:都道府県別保育士・幼稚園教諭と全産業の賃金比較月刊『保育情報』No.504,2018.11
保育研究所:内閣府/認定こども園数(2019.4.1)月刊『保育情報』No.516,2019.11

あとがき
―本調査研究に取り組んで―

私の勤務していた保育園では、働く保護者の保育要望を真剣に受け止め、実現のため職員と話し合い準備もし、時には行政とも相談をして、支えてきました。
母性神話が大手を振っていた時代でしたが、子ども同士・保育士と子どものあたたかな関わりの中で、保育園の子ども達は、こんなにも健やかに育っていることを発信し続けてきました。
私は、働くことを支え、子ども達を育む仕事にやりがいを感じていました。
「男女雇用機会均等法」「男女共同参画社会基本法」等労働・ジェンダー政策の拡充(私自身、これらについて片手落ちの感を持っております)の中で、保育時間が長くなり、今では12 時間開所がどの保育園でも当たり前になりました。
そして保育制度そのものも変化してきました。
「子育て支援」の名のもとに、働く保護者だけではなく、地域での子育て支援にも門戸を開き、保育施設が多様になり爆発的に増えてきました。
退職して5 年、「保育士が見つからない!」という悲鳴が保育現場から聞こえて久しく、今回の調査に踏み切りました。
若い保育士の育成については、丁寧な支援の仕方が保育園側に求められており、それぞれの保育園で取り組まねばならない時代なのだと、あらためて思いました。
このコロナ禍でも、働く保護者を支えるために、保育園は開園しています。
まとめに書いてある通り、保育園は、「養護と教育を一体的に行う営み」の場として、子どもの最善の利益を保障する役割を担うことにあります。
その社会的貢献に見合った保育園への公的価格になっているのか?保育士の配置基準になっているのか?―現在の保育制度の不十分さに心が痛みます。
後輩たちが、保育という仕事の素晴しさを実感しつつ、長く働き続ける保育現場であることを切望してやみません。
この研究がたくさんの皆さまの目に触れ、ご一緒に考えていただくきっかけになればと願っております。

(小野ともみ)

◆          ◆          ◆

今回の調査を終え、アンケートの結果及び聞き取り調査を通し「保育の今後」に大きな危惧を感じました。
離職に関し公立の方が圧倒的に定着率は高く、社会福祉法人立等民間保育園では離職率が高く現れました。
なぜ公立の定着率がよいのか?仮に民間でも同じ状況が作れたならばどうなのか?問いかけてみたいと思いました。
しかし、聞き取りをする中で、働く条件に恵まれている(?)と思える公立保育所でも、保育士不足に大きな悩みをもち、日々保育を支えている状況が見えてきました。
定着率がよいのは、定年退職の時期まで在職している結果で、退職後の人員補てんについては、新規の採用ではなく、退職職員を再任用する形で補っている例がみられました。
新規採用がないということは(あっても少数)、後に続く若手が育っていかず、保育を繋ぎ・質を高めていくことはどうなるのか? このままでは、保育の衰退あるいは崩壊につながるのでは、という危惧を持ちました。
本来どの保育現場にあっても“子どものいのちを守る”ことに心を砕き、今回のような「新型コロナ感染」という状況下でも休園とせず、保育にあたっています。
このまま保育現場が疲弊していく状況に目をつぶらず、警鐘を鳴らしていきたいと思いました。
今回の結果が多少とも現場での「保育士不足解消」に結びつくヒントが得られたら幸いです。
ご協力いただいた多くの皆さんに感謝しつつ御礼申し上げます。

(小幡正子)

◆          ◆          ◆

私が保育所に勤務していたころ年長児に、「大きくなったら何になりたい?」と尋ねると「保育所の先生」と返ってくることが多かった。
保育士は子どもの身近にいる憧れの職業だったが、今は保育士を募集しても応募者がいない。
関係者のネットワークやハローワーク、人材バンク、派遣会社を頼りにしても必要な人材確保ができず、保育所では勤務表を作るのに四苦八苦している。
保育所は社会経済と日本の将来を支える人材育成に不可欠なもので、保育士不足を見過ごすわけにはいかない。
一般的に、保育士の処遇が他の職業と比較して月額10 万円低いといわれているが、これまで保育士の使命感と責任感に支えられて保育所経営をしてきた。
日本の特性とされてきた終身雇用が崩壊しつつあり、定年まで働きたいと希望する新卒者も減少している。
保育所の12 時間保育を8 時間勤務の正規保育士を基本に、はみ出した4 時間分は不安定雇用の臨時職員で補ってきた。
数年前の「保育園落ちた日本死ね」という衝撃的な訴えに国は応えようといろいろな形態の受け皿を用意したが、保育制度が複雑化するだけで働く者を悩ませている。
保育士養成校(大学)を出ても正規保育士の道が閉ざされる現状を考えると、高い学費を費やして保育科を選択する学生も少なくなっている。
保育現場では足りない保育士を穴埋めしようと主任保育士がクラスを担当したり、所(園)長が手薄になった時間帯に保育にあたるなど綱渡りの状態である。
今回の調査のために保育所を訪問すると、どこでも快く受け入れてくれた。
保育士不足は行政や運営法人、所(園)長の大きな課題になっており人材確保に悩まされている。
保育士は子守りの延長線にあり、その専門性が正当に評価されないのが根底にある。
処遇改善の他、煩雑なローテーション勤務、休憩休暇の取りにくさ、人間関係の複雑さ等が相互的に影響している。
臨時保育士は公立、私立を問わず保育需要が少なくなった時の調整弁なっているのではないか。
災害時の保育所の役割は大きく期待されており、保育士もそれに応えようと努力している。
今回の調査で、いったん離職しても再度保育士を希望することが多いことを知って、救われたような気がする。
日本の将来を担う子どもの育成と一貫性のある保育行政、及び返済不要の奨学金制度とインターンシップの拡充で人材確保を提案したい。
小さいころに憧れた保育士の職業を、希望をもって選択し働き続けられる職業環境の大切さを感じた。
最後に調査に協力していただいた皆さまに感謝します。

(菅原和子)

◆          ◆          ◆

主にアンケートの集計と分析を担当しました。
アンケート結果で印象的だったことは、早期離職が顕著であること、にもかかわらず他の仕事に移るのではなく、保育職を続けようとする保育者の姿でした。
ここ数年は、公立や社会福祉法人立の保育所に止まらず多様な形態の保育施設が多数新設されて移動が容易になっていることが背景にあるようです。
自分のイメージに合った、より働きやすい職場を求めて移動を繰り返すものの、自分に合う職場が見つからないという保育者の姿が目に浮かびます。
よく知られているように、保育者の待遇は他の職業と比較すると低水準にとどまっています。
私は、夏になると、毎年のように欧米の保育施設を見学していますが、そこでわかったことは、日本の保育は、「狭いスペースで、たくさんの子どもを、少ない保育者で」保育するところに特徴があるということでした。
そのような条件にもかかわらず、保育の姿をみると、決して、日本の保育者が劣るわけではなく、日本特有の密度の濃い働きかけがなされているのです。
このような条件に置かれている日本の保育者に、ぜひ、豊かな保育条件で保育をしてもらいたいと思っています。
コロナ禍の中で、医療従事者の役割がEssential Work であるととらえられています。
これまでも、震災等の災害時には、人間の命を守るために医療従事者は、第一線で活動してきました。
同様に、保育者たちも、保育施設を閉鎖しないで、第一線で活動する方々の子どもたちを預かり続けてきました。
コロナ禍の中で学校が休業になっても、保育施設は出来るだけ開所し続けています。
このような意味から、保育という仕事もEssential workと位置づけられて良いでしょう。
保育の仕事の重要性が社会の中で明確に位置づけられて、保育者の待遇改善が進むことを希望しています。
この調査が、そのための一助となることを願っています。

(鈴木牧夫)

◆          ◆          ◆

今回の調査前からずっと疑問に思っていることがある。
政府や自治体には、保育・子育ての将来政策をどうしてきちんと数値データに基づいて策定しないのか。
「男女共同参画社会基本法」が公布・施行されたのが、1996 年。
そこには、「男女が対等な構成員として自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保される」こととある。
この数年は、「女性活躍推進」の議論も精力的に展開されている。
これを受けて、家族や保育・子育てについての私のイメージは次のようなものである。
男女が社会にデビュー、共に外で働くようになる。
結婚していつかは子どもが生まれる。
では誰が育てるのか。
「男は外で働き、女は家庭で」という役割付与はもはや時代遅れ。
そもそも法の趣旨に反する。
出産後も男女が共働きすることができるためには、子どもを安心してあずける保育施設が必要である。
保育政策は子の家族イメージを基本に打ち立てられなければならない。
では、どんなことが考慮されなければならないか、不十分は承知で並べてみれば、少子化を見据えた上で保育を必要とする子どもの数は?しかし、少子化といえども、単純に保育施設の数を減らしていけばいいことにはならない。
ご存じのように、現在働きたくても子どもをあずけることができず家庭にとどまらざるをえない潜在的主婦(主夫)が相当数いる。
それもにらんで、将来的にどれだけの数の保育施設が必要か。
そのために何人の保育士が必要とされるか。
では、大学や専門学校などは現在保育有資格者を何人送り出しているのか。
将来を見据えたとき、その数で足りるのか。
それらの数値を算定し、それにもとづき実効性のある保育・子育ての将来ビジョンを作成することが大切だと思うのである。
待機児童解消のために保育施設を増やそうとするのは政策上間違っているとは思わない。
だが、政府の昨今の一連の施策は総じて急場しのぎに思えて仕方がない。
政府自身が掲げた男女共同参画社会を実現するには、私の問題意識にしっかりと応えてくれることも重要とは思うのだが。

(関本英太郎)

◆          ◆          ◆

保育所等の入所を希望する待機児童がなくならない中で、国は新制度の中でさまざまな形態の保育施設をつくってきた。
それでも少子化はすすむが待機児童はなくならないでいる。
今回のコロナ禍の中でも保護者への可能な場合の家庭での保育の協力を自治体としてお願いしたが、保育は通常どおり行われた。
東日本大震災の時も連絡もままならない中でも保育は行われた。
もはや保育所は子育てにとって、経済活動にとって、災害時にも国民が生きていくためになくてはならないライフラインとして、社会の中で役割を果たしている。
保育士不足は社会にとって大きな問題であり、宮城県内の状況を調査研究できたことは意義あることだと感じている。
この調査から保育現場での保育士確保の困難な実態を、改めて客観的に捉えることができた。
聞き取り調査の中で、どの現場も入職後の定着のために何らかの取り組みをしていることが分かった。
入職3 年までの離職が多数という結果で、その期間をいかに丁寧に取組むかが重要であることが示されたと思う。
その中で職場の人間関係の信頼をつくる取り組みが大きいことも示されている。
職場の管理者は職員集団の関係性を保育の質を高めていくことを追求する取り組みの中で、つくっていくことが求められると感じた。
保育観、保育方法の共有を職員間の共感と共につくっていくことが求められている。
よりよい保育を求めていくことの、おもしろさや喜び、保育者間の共感と認め合いをどうつくるか、支えられているという実感を抱いてもらうことだと感じている。
そのことをつくるには、保育現場はあまりにも忙しい。
保育士の配置基準を若い保育士を支えていく体制を含め、現実の仕事に見合うものに変えてもらうこと、保育士が労働者としてあたりまえに、休憩、休暇が取得できる条件の改善、給与の改善が必要で国や自治体へ大きく求めていきたい。
それがなければ、今後もこの問題は続き、困難な中でも社会的な役割を果たし、やりがいをもって取り組んでいる現場の苦労はむくわれない。
また、今後若い世代が保育士という仕事に期待をもち、後に続いてくるような職業にはならないと思う。
国は責任を持って、処遇や保育条件の改善を行ってほしい。

(丹野広子)

◆          ◆          ◆

本調査研究のまとめに入っていた頃に新型コロナウイルス禍問題が発生し、その後の緊急事態宣言に及んで、メンバーの集まりを自粛し作業が手間取ってしまった。
実はこの間にも、保育園は「原則開園」されており、休暇の取れない働く親たちへの支援に向けて保育活動は続いてきている。
私が発達心理学研究の立場から保育園の子どもたちと関わり、また保育園づくりとその運営に参加するようになってから半世紀余りもの長い年月が経った。
保育行政、政策の専門家ではないが、最近の新制度導入の動向・意図の不透明さから保育所経営・運営の行方に不安を感じている。
この度の調査から保育者たちの思いや保育園を取り巻く現状を知るにつけ、否定された筈(1998 年厚生白書)の「母性神話(3 歳児神話)」が保育所政策に未だ影響を与えているように思われた。
特に3 歳未満児保育を単なる「子守り」と捉える保育観・発達観が保育所保育の評価に反映されて保育士の働き方をも過小評価しているように思われたのである。
そうならば、産休明けからの0 歳児の集団保育の実績をもっと現場から発信して行政上の意識改革を求める必要があるのかもしれない。
競争原理・効率化・早期教育化という世の中にあって、子どもや親たちの孤立しがちな日常生活の支え手であってほしい。
そのためにも保育者たちが民主的な職場集団の中で、社会上の問題へ感性を豊かにし、協同し合う生活を展開してほしい。
私も幼い子どもたちと保育者たちの傍らで、暫くは課題を追ってみたいと思っている。
当調査の共同研究メンバーは保育現場経験者と研究者で構成され、相互に可能な役割を分担し、意見交換をしながら進めてきた。
有意義な機会を共有でき、感謝です。

(野呂アイ)

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