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【レポート】
「東日本大震災から6年、いま、地域経済は・・・」

〜2014年度の経済諸統計にもとづく分析〜 2017.9.1 天下 健
天下 健(あました けん)
札幌市出身、東北大学経済学部卒、坂総合病院(副事務長)、
前日本共産党塩釜地区委員長(1995~2017年)。

本論文は、東北地方医療・福祉総合研究所の助成企画です。

〔一〕宮城県の経済活動別県内総生産(名目)の推移の特徴について

(1)東日本大震災後、県内総生産が14%を超える高い伸びに

宮城県の総生産は、平成26(2014)年で、8兆8,958億円となり、東日本大震災前年の平成22(2010)年を上回るだけでなく、リーマンショックの前年・平成19(2007)年を上まわる成長となっています。
その成長率は、平成22(2010)年を100とすると、【表1-1】にみられるように、22〜26年の4年間で14%の高い伸びとなっています。

【1-1】 平成22〜26年総生産の伸び
伸び率(%)
2010 100.00
2011 97.29
2012 106.98
2013 109.52
2014 114.01

(2)減産する第一次産業、建設業と製造業で9,000億円の増加

平成22〜26年の伸びを、産業(県内総生産の約87%を占める)の項目別で、とりわけ変化の大きいものは【表1-2】のとおりです。

【1-2】平成22年度と26年度の比較(単位:億円)
  2010年 2014年 2014年-2010年 2014年/2010年(%)
県内総生産 78,021 88,958 10,937 114.01
産業小計 67,252 77,500 10,248 115.23
農林水産業 1,171 960 ▲ 211 81.98
製造業 全体 10,642 11,616 974 109.15
① 食料品 2,364 2,167 ▲ 197 91.66
② 電気機械 1,656 2,949 1,293 178.07
建設業 4,364 11,808 7,444 270.57
サービス業 15,413 16,893 1,480 109.60

平成22年度から平成26年度への約1兆1千億円の県内総生産の伸びは、主に建設業で7,444億円、製造業の「② 電気機械」で1,293億円の伸び、サービス業で1,480億円の伸びとなっています。

宮城県の総生産の高い伸びは、震災復興にともなう建設業の伸びが大きな比重を占めるとともに、トヨタ企業の誘致・生産開始などにともなう製造業の伸びを特徴としています。
その一方で、第一次産業【表1-3】は、この5年間で211億円減少し、大震災前年に比べて81.98%にとどまっています。第一次産業は、大震災の平成23(2011年は、961億円まで落ち込み(対前年比82.06%)ました。
その後、平成25年度に1,076億円まで回復しますが、平成26年度には960億円に減少、大震災前の水準より後退しています。
特徴として、農業生産の落ち込みが大きく影響しています。26年度/22年度で79.45%となっています。
製造業のなかの①食料品には【表1-2】、水産加工などが含まれます。
平成26年度では、震災前の水準より▲197億円91.66%にとどまっており、沿岸部の主力産業の復興が「道なかば」であることを示しています。

【1-3】第一次産業の推移(単位:億円)
  2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
第一次計 1,171 961 1,096 1,076 960
農業 711 693 802 734 585
林業 36 26 27 31 35
水産業 423 241 246 310 339

(3)広がる地域間格差

県内各自治体ごとの総生産(名目)は、特長として、自治体間での格差が急速に広がっていることです。
【表1-4】は、2010-14年=大震災後の伸び率、2001年〜14年の市町村内総意生産の伸び率を比較したものです。
(*)は、津波被害のあった沿岸部の自治体です。

1)

大震災後の<2010〜14年の総生産>では復興に伴う建設業の急増のなかで沿岸部の自治体が軒並み高い伸びとなっています。
また、内陸部の数自治体が高い伸びとなっています。沿岸部の自治体で、松島、女川が総生産で大きく落ち込んでいるのも特徴です。

2)

<2001〜14年の総生産>では宮城県の総生産が101%と2001年水準を超えたところにあります。その主な押上げ要因が復興にともなう建設業の増大であることは 【表1-2】でみたとおりです。

3)

【表1-4】を四つのグル―プに分けて、その特徴をみてみます。
なお、自治体別の特長は、「四、市町村内総生産の特徴について」で検討します。

≪a、2010-14年、高い伸びの自治体の特徴≫

ここには、仙台市をはじめ16自治体が入ります。
そのうち9自治体が沿岸部で、南三陸177%、山元173%など、震災復興に伴う建設業の急増ガ要因となっています。
内陸部では、涌谷166%、大衡156%、大崎146%などの自治体です。

≪b、2010-14年総生産の伸びが県平均以下の自治体の特徴≫

19自治体が県平均以下の総生産の伸びとなっています。うち、内陸部が13自治体、沿岸部が6自治体です。
2010〜14年の総生産(宮城県114%の伸び)中で、沿岸部では、松島48%、女川71%、内陸部では、 柴田90%、大河原・栗原95%が大幅な減少となっています。

≪c、2001〜14年総生産で、高い伸びとなっている自治体の特徴≫

県平均101%を上回る自治体は、20自治体です。
11自治体が沿岸部、9自治体が内陸部となっています。
130%以上の伸びとなっている自治体が7自治体、沿岸部では、山元175%、南三陸158%、亘理147%です。
内陸部では、涌谷159&、大和147%、富谷144%、大衡139%です。

≪d、2001〜14年で、県平均(101%)より低い伸びの自治体≫

県平均以下の自治体は、15自治体です。
沿岸部では、塩釜84%、多賀城95%、松島94%、女川61%の4自治体です。
これらの自治体は、震災後の4年間の建設業の押し上げがあっても2001年比では総生産が落ち込んでいる地域です。 内陸部の美里83%、七ヶ宿87%、蔵王87%、栗原88%などでは、14年間で総生産が10%以上落ち込んでいる地域です。
第一次産業の衰退、東日本大震災の影響などによると思われます。

【1-4】各自治体の総生産の伸び率(単位:%)  
地域 2010年〜2014年 地域 2001年〜2014年
*南三陸177*山元町175
*山元町173涌谷町159
涌谷町166*南三陸158
大衡村156*亘理町147
大崎市146大和町147
*亘理町144富谷市144
*東松島144大衡村139
*七ヶ浜140*東松島129
大和町133*名取市121
*名取市132大郷町118
大郷町124*岩沼市118
*石巻市122大崎市113
*気仙沼121*七ヶ浜112
富谷市116*仙台市107
*仙台市116*石巻市107
色麻町115柴田町104
宮城県114*気仙沼102
*岩沼市113角田市102
蔵王町111*利府町102
川崎町110宮城県101
七ヶ宿109登米市101
*塩釜市109加美町98
登米市109丸森町97
村田町108色麻町96
*多賀城107村田町95
美里町106*多賀城95
丸森町105*松島町94
加美町104大河原93
白石市103川崎町92
角田市103白石市92
*利府町101栗原市88
栗原市95蔵王町87
大河原95七ヶ宿87
柴田町90*塩釜市84
*女川町71美里町83
*松島町48*女川町61

〔二〕事業所と従業者の大移動――2009〜2014年の変化

総生産において、県内でも地域間の格差が広がっている状況(2014年現在)をみてきました。
建設業では、復興の重点時期や規模が自治体ごとに違うことから、建設業の生産額も変化します。
一方、製造業などでは、民間企業が沿岸部で再建をめざすのか、内陸部へ移転するのかなどで大きく変化します。
その際に、体力のある中堅・大企業は生産拠点の移動を早く決断していますが、体力のない中小零細企業は再建できないでいます。
大震災を挟んで、事業所とその従業員数がどう変化しているのかをみてゆきます 。

(1)宮城県全体で、2009-14年で、7,038事業所、21,442の雇用が減少

【表2-1】にみるように、宮城県の事業所数は、大震災前の2009年には111,343事業所あったのが、大震災後の2012年に98,190事業所に、実に12,153事業所が減少しました。
2014年までに約5,000の事業所が再開しましたが、事業所数は、103,505にとどまり、震災前と比べると、7,038事業所、7%の減少となっています。
従業者数では、2009年の1,032,237人に対して、大震災後の2012年に966,780人に、65,457人の従業者が減少、その後復興されたとはいえ、2014年では1,010,795人にとどまり、大震災前の2009年に比べて▲21,442人、2%の減少となっています。
参考ですが、2009-14年に減少した7,038事業所、従業者数21,442人から、事業所の規模を出すと、1事業所当たり3.0人の従業者となります。
2009年の従業者数/事業所数の平均が9.3人ですから、2014年時点で復興されていない事業所の多くが零細規模であることが推測できます

(2)沿岸部から内陸部への大移動

2009〜14年での変化を、仙台市、沿岸部、内陸部に分けてみると、変化の実態がよりリアルにみることができます。

a)仙台市

仙台市は全体として事業所・従業者数ともに増えています。【表2-2】参照。
2009年比で、事業所で1,320事業所、2.6%増に、従業者数では15,170人、2.8%増です。 区ごとでは、若林区の減少が大きく、青葉区の増大が大きくなっています。
青葉区では、事業所数で8.2%増、従業者数で4.8%増となっていて、従業者数の伸び数/事業所数の伸び数=7.1人ですので、10人未満の事業所が多いと推測できます。

b)沿岸部

【表2-3】は、大震災での津波被害を受けた沿岸部の各自治体での事業所とその従業者数の復興状況(14年)を表にしたものです。
14自治体(仙台市除く)の合計で、7202事業所、33,105人の従業者が減少しています。その規模は、2,009年の沿岸部の31,197事業所の23%にあたります。
従業者数では、243,351人の13.6%にあたります。60%以上の事業所が減少した自治体は、南三陸町と女川町、約三分の一の事業所が再開されていないのが石巻市、気仙沼市、東松島町、山元町となっています。
塩釜地域の二市三町では、1,021事業所(09年の12.7%)、従業者数5,517人(同8.8%)の減少となっています。
この統計は、大震災から3年目の2014年の数値ですが、地域に事業所が再建され、働く場が戻ってくることが真の復興であり、地域の再建につながります。
2017年の現時点に至っても、相当の部分で復興されていないように思われます。

c)内陸部

【表2-4】 は、内陸部の事業所と従業者の変化です。
この5年間で、津波被災があつた沿岸部ほどではないが、大衡村、大和町、富谷市以外の全ての自治体で事業所が減少しています。
そのうち10%以上の事業所が減った自治体が白石市、七ヶ宿町、加美町、涌谷町の4自治体、残りの13の自治体では7%以上の事業所が減少しています。
事業所の減少にともない、そこで働く従業者が減少しますが、500人以上の従業者が減った自治体は、大崎市(2,720人)、登米市(1,259人)、大河原市(1,135人)、柴田町(879人)、角田市(870人)、美里町(656人)、栗原市(585人)の7自治体です。

d) 急激に進んだ二極化と自治体間の格差拡大

【表2-5】と【表2-6】 は、 事業所・従業者の増・減で、各自治体間での二極化が急激に進行している現状を示したものです。
事業所・従業者が集中している自治体は、仙台市の3つの区(青葉・太白・泉)と富谷、大和、大衡、名取、利府の5自治体。
事業所・従業者が減少している自治体は、仙台市の2つの区と県内29自治体です。
【表2-5】では、仙台市の5つの区を事業所増の区と減の区を分けています。
仙台市の2区(宮城野、若林)と県内29自治体では、9,006事業所、その従業者数47,399人の減少となっています。
その一方で、仙台市の3つの区(青葉、太白、泉)と5自治体(富谷、大和、大衡、名取、利府)に事業所が急激に集中しています。
【表2-6】は、県内の事業所とその従業者の構成比を、県内の6自治体と29自治体を比較した表です。このなかで明らかなことは、仙台市とその周辺5自治体に、事業所が集中し、一方で、過疎地域が広がっていることです。
2009年と2014年の5年間で、仙台市と5自治体の事業所は、51.8%から57.1%へ5.3%増え、従業者数でも59.0%から63.1%へ4.1%増えています。
大震災を挟んで急激な集中となっています。

【2-1】
宮城県 事業所数、従業者数の推移
  増減数 増減比
事業所 2009 111,343 100%
2012 98,190-12,153 88%
2014 103,505-7,038 93%
従業者 2009 1,032,237 100%
2012 966,780-65,457 94%
2014 1,010,795-21,442 98%
【2-2】仙台市
事業所、従業者数の増減(2009〜14年)
  事業所数 従業者数
仙台市 1,320 15,170
青葉区 1,661 11,481
宮城野区 ▲162 414
若林区 ▲416 ▲2,602
太白区 208 4,729
泉区 20 1,148
【2-3】沿岸部の事業所、従業者数の減少(2009〜14年)
  事業所数 減少率 従業者数 減少率
石巻市▲2,77331▲12,35619
気仙沼▲1,47133▲7,85026
南三陸▲54763▲2,41443
塩釜市▲49215▲1,0205
東松島▲45227▲1,57814
女川町▲38262▲2,05240
多賀城▲33713▲3,50016
岩沼市▲1568▲1,3517
山元町▲15328▲66716
亘理町▲12811▲3994
七ヶ浜▲12422▲46516
名取市▲11941,3495
松島町▲8112▲81916
利府町1312873
小計▲7,202 ▲33,105 
(若林) ▲416   ▲2,602  
(宮城野) ▲162   414  
仙台沿岸部含▲7,780 ▲35,293 
【2-4】
内陸部の事業所、従業者数の推移「仙台市以外」
(2009〜14年)
  事業所数 減少率 従業者数 減少率
白石市▲198▲111048
角田市▲124▲9▲870▲6
登米市▲344▲8▲1259▲4
栗原市▲278▲8▲585▲2
大崎市▲427▲7▲2720▲5
蔵王町▲59▲9▲296▲6
七が宿▲14▲14▲35▲7
大河原▲108▲8▲1135▲11
村田町▲52▲9▲412▲7
柴田町▲114▲9▲879▲6
川崎町▲35▲780.2
丸森町▲44▲8▲439▲11
大和町333253121
大郷町▲28▲7▲288▲8
富谷市12711169615
大衡村259273660
色麻町▲23▲9▲463▲18
加美町▲137▲11▲358▲4
涌谷町▲82▲11▲457▲7
美里町▲74▲7▲656▲7
合計 ▲1,956  ▲3,777  
【2-5】
事業所・従業員の増・減地域 2009〜14年比較
  事業所数 従業者数
仙台3区、5自治体
(青葉・太白・泉、富谷、
大和、大衡、名取、利府)
1,968 25,957
仙台2区、29自治体 ▲9,006 ▲47,399
【2-6】県内35自治体の中での事業所の集中について
    2009年(構成比) 2014年(構成比)
宮城県 事業所数 111,343(100) 103,505(100)
従業者数 1,032,237(100) 1,010,795(100)
仙台市と5自治体
(富谷、大和、大衡、名取、利府)
事業所数 57,719(51.8%) 59,118(57.1%)
従業者数 609,357(59.0%) 638,126(63.1%)
29自治体 事業所数 53,624(48.2%) 44,387(42.9%)
従業者数 422,880(41.0%) 372,669(36.9%)

〔三〕県民所得の動向について

(1)10年間の県民所得の特徴について 2004〜14年
――10年間で106%の伸び。雇用者報酬は8%減

県民所得は、1雇用者報酬、2財産所得、3企業所得の合計で示されます。
【表3-1】は、村井県政誕生の前年にあたる2004年(平成16年)、東日本大震災の前年2010年(平成22年)、宮城県・市町村の統計が出されている2014年(平成26年)を軸に、県民所得がどう変化しているかを示したものです。
この表は、宮城県「県民所得および県民可処分所得の分配」によったものです。

この表からわかることは、

県民所得が、2004年〜14年の10年間で3,557億75百万円増えて、106%に伸びていること。
そのなかで雇用者報酬は、3,462億7百万円減少している(92%)していること。
伸びているのは、財産所得が663億38百万円、企業所得が、6,376億44百万円増えていること。
大震災前(10年)までは、財産所得はほぼ横ばい、企業所得は900億円減少し94%まで落ち込んでいました。
企業所得は、2004年〜14年の4年間で1.55倍に急激に膨れ上がっていること。

以上のように、2004年〜14年の10年間は、県民所得は106%に伸びてはいるが、その主要因は、企業所得の急激な伸びであって、雇用者報酬は、3,462億円も減少していることです。

(2)「所得水準に関する」指標の分析 2004〜14年

宮城県の同統計には、関連指標として「所得水準に関するもの」が掲載されています。
【表3-2】は、所得水準に関する4つの指標を年度別に比較したものです。

a)「県民一人当たり所得」について

「県民一人当たり所得」は、2014年度で2,807千円です。
10年間の推移をみると、2004〜10年の6年間で、▲223千円・7%減少し、大震災後の2010〜14年の4年間で369千円15%の高い伸びとなっています。
自治体別の統計には、「(参考)一人当たりの市町村民所得」が毎年掲載されています。県内の自治体の中でもっとも高いのが大衡村で、2014年度には、4,053千円です。

b)県民可処分所得(県民一人当たり)について

県民一人当たりの可処分所得は、「県民(企業含む)が実際に使用可能な所得」(県、用語説明)のことで、aの「県民一人当たり所得」と同傾向を示しています。2004〜14年で112%の伸びとなっています。

c)「県民一人当たり所得」について

「県民一人当たり所得」は、2014年度で2,807千円です。
10年間の推移をみると、2004〜10年の6年間で、▲223千円・7%減少し、大震災後の2010〜14年の4年間で369千円15%の高い伸びとなっています。
自治体別の統計には、「(参考)一人当たりの市町村民所得」が毎年掲載されています。県内の自治体の中でもっとも高いのが大衡村で、2014年度には、4,053千円です。

【3-1】 県民所得の推移 2004〜14年 (単位:100万円)
  2004年 2010年 2014年
県民所得
(1+2+3)
6,178,783 5,725,224 6,534,558
100% 93% 106%
  100% 114%
1、雇用者報酬 4,428,988 4,061,894 4,082,781
100% 92% 92%
  100% 101%
2、財産所得 325,337 330,077 391,675
100% 101% 120%
  100% 119%
3、企業所得 1,424,458 1,333,253 2,060,102
100% 94% 145%
  100% 155%
【3-2】 所得水準に関する4つの指標
2004〜2014年 (単位:千円)
  2004年 2010年 2014年
県民所得
(県民一人当たり)
2,661 2,438 2,807
100% 93% 108%
  100% 115%
県民可処分所得
(県民一人当たり)
3,378 3,317 3,781
100% 98% 112%
  100% 114%
家計最終消費支出
(県民一人当たり)
2,129 2,123 2,196
100% 100% 103%
  100% 103%
県民雇用者報酬
(雇用者一人当たり)
4,557 4,251 4,370
100% 93% 96%
  100% 103%
【3-3】2010〜14年の生産、所得の伸びの比較
  2010 2014 伸び率
県民総生産(億円) 78,021 88,958 114%
県民所得(億円)   57,252 65,346 114%
うち企業所得 13,333 20,601 155%
県民一人当たり
家計最終消費支出(千円)
2,123 2,196 103%
雇用者一人当たり
報酬(千円)
4,251 4,370 103%
d)雇用者一人当たりの報酬

2004〜14年の10年間では、4,557千円から4,370千円に、雇用者一人当たりの報酬が18万7千円で96%減少しています。
2004〜10年の6年間で30万6千円減少(93%)。大震災後の復興需要、企業誘致などでの経済成長のなかでも、雇用者報酬は低く抑えられています。
その結果、村井知事時代前の2004年の賃金水準を回復できないでいます。

【表3-3】は、大震災後の宮城県での総生産、県民所得の伸びと家計、雇用者の所得を対比した表です。
県内総生産と県民所得は、114%を示しています。
県民所得が、2010-14年で8,094億円増えていますが、そのうち7,268億円が企業所得です。
その結果、雇用者一人当たり報酬は103%の伸びにとどまっています。

(3)「市町村民一人当たり所得」県内一位の大衡村の村民は豊かになったのか

【表3-4】は、大衡村の「一人当たり村民所得」を04年、10年、14年で、その変化と構成を検討したものです。
大衡村の村民所得は、2004年の16,802百万円が2014年には22,732百万円に、5,930百万円増え、135%もの高い伸びを示しています。
大震災後のトヨタとその関連事業所などの操業によるものとして、村井県政の「富県戦略」の「成功」の象徴となっています。
村民所得59億円増の内分けをみると、雇用者報酬の増が約10億円、財産所得の増が約4億円で、企業所得が約45億円増となっています。
村民所得増59億円の76%が企業所得の増です。
雇用者報酬は、2004〜14年の10年間で110%の伸びに対して、財産所得は146%、企業所得は169%と急成長となっています。
大衡村が県内1高い「一人当たり村民所得」だといっても、企業所得を含めた「村民所得」の増大をもって村民の所得が増え、暮らしが良くなる指標として見ることはできません。

≪就業者数と雇用者報酬+個人企業所得≫を比較して村民の暮らしをみる

各自治体の統計に「就業者数」が(参考)として掲載されています。
「就業者数」とは、【表3-5】にあるように、無給の家族従業者を含む「あらゆる生産活動に従事するもの」と規定されています。
この「就業者数」に対応する直接入る所得としては、「雇用者報酬」と「個人企業所得」(農業、その他の産業、持ち家)の合計と比較し、変化をみることが、より実態を反映できると思います。 (就業者一人当たり所得の算出方法がわからないので、「雇用者報酬」と「個人企業所得」を加えた値を就業者数で割ることにしました。
このやり方は、まったくの個人的発想ですので公的には通用しないかもしれません。
ただ、同じ指数で年度間の比較をする分には構わないと思います)
大衡村の「就業者一人当たりの所得」として表にしたのが、【表3-6】です。
「就業者一人当たりの所得」(推計)で変化をみると、2004〜14年の10年間での就業者の所得は、約111億円から118億円に106%の伸びとなっています。
就業者数が5,020人から6,332人に1,312人・126%と増えていることから、一人当たりの所得は、2,216千円から1,865千円に351千円減少します。
2010〜14年の時期はトヨタが操業を開始する時期で、宮城県全体でも建設業での復興バブルともいえる時期です。
2010年に就業者一人当たりの所得は1,907千円に対して2014年のそれは、1,865千円と4万2千円減98%となっています。

【3-4】大衡村の「一人当たり村民所得」について
(単位:百万円)
  2004年 2010年 2014年
村民所得 16,802 13,133 22,732
100% 78% 135%
  100% 115%
雇用者報酬 9,329 7,786 10,300
100% 83% 110%
財産所得 821 852 1,202
100% 104% 146%
企業所得 6,652 4,495 11,230
100% 68% 169%
村民一人当たり
千円)
2,943 2,462 4,053
100% 84% 138%
【3-5】雇用者数と就業者数(県「用語の解説」より)
就業者は、「あらゆる生産活動に従事するものをいい、
無休の家族従事者を含む」。
雇用者は、「あらゆる生産活動に従事するもの」のうち、
個人業主と無休の家族従事者を除くすべての者」であり。
法人企業の役員、特別職の公務員、議員等も含まれる。
【3-6】大衡村での就業者一人当たりの所得(推計)変化
  単位 2004年 2010年 2014年
雇用者報酬 (百万円) 9,329 7,786 10,300
個人企業 (百万円) 1,794 1,678 1,511
合計 a (百万円) 11,123 9,464 11,811
(%) 100% 85% 106%
就業者数b (人) 5,020 4,963 6,332
一人当り所得 (千円) 2,216 1,907 1,865
(%) 100% 86% 84%
【3-7】県(村)民所得における企業所得の構成比率(2014年)
(単位:百万円)
  a 県(村)民所得 b うち企業所得 b/a構成比
宮城県 6,534,558 2,060,102 31.5%
大衡村 22,732 11,230 49.4%

【表3-7】は、県(村)民所得における企業所得の比率を、宮城県(平均)と大衡村を比較した表です。
宮城県全体での、県民所得に占める企業所得の比率は、31.5%です。
大衡村での村民所得に占める企業所得は49.4%で、企業所得の比率が飛びぬけて高いことを示しています。
 以上、「県内1所得の高い大衡村」の現実は、49%を超える企業所得が作り出したものであること、「一人当たり就業者数」(推計)で比較すると、下がっています。
 なお、「市町村民所得」では、2014年度から「参考」として、人口と就業者数が掲載されました。
大衡村の統計では、2014年度は、「人口」5,608人に対して、「就業者数」6,332人と記載されています。

〔四〕市町村内総生産の特徴について

「一(3)広がる地域間格差」で、県内の自治体を四つのグループに分けて、その特徴についてみてみましたが、ここでは、自治体別に、特徴をみてみます。

a)2010〜14年、高い伸びの自治体の特徴

この群には、仙台市をはじめ16自治体が入ります。
そのうち9自治体が沿岸部で、南三陸177%、山元173%など、震災復興に伴う建設業の急増ガ要因となっています。
内陸部では、涌谷166%、大衡156%、大崎146%などの自治体です。

●南三陸町

南三陸町は、県内で最も高い伸びですが、その特徴は、建設業が859%になっているからです。
10年の建設業が49億円だったのが、14年には422億円になっています。
10年の総生産が421億円ですから復興需要が終わり、建設業が元に戻ると、総生産は2010年より下回ります。

●山元町

山元町も南三陸町と同じ傾向になっています。
山元町の総生産は10年が400億円、14年が683億円です。
建設業は、10年が約30億円だったのが、14年に356億円となりました。
復興需要が終わると、総生産が復興前より10%前後下回ります。
水産業、製造業の復興が重要な課題となりますが、2014年度では、2010年比で50%、67%にとどまっています。

●涌谷町

内陸部の自治体で、大震災後に総生産を急激に増やした自治体の一つです。
涌谷町は、大震災前の町内総生産が約475億円。うち製造業が153億円でした。
2014年の総生産が800億円に急増、製造業が424億円と277%の伸びとなっています。

●大衡村

大衡村では、製造業の高い伸びが特徴となっています。
大衡村の2010年の総生産は340億円でしたが、2011年の製造業が前年より293億円増えています。
トヨタの生産が始まったことが要因となっています。

●大崎市

内陸部で製造業の生産が高い伸びとなっています。
10年比で14年には、625%となっています。
(292億円から1824億円)農業生産が、10年比で74%となっています。

●七ヶ浜町

2010〜14年の変化で高い伸びとなっている七ヶ浜町の特徴は、この時点では、第一次産業の生産が震災前の77%に留まっている点、建設業が2014年度は震災前の5倍となっています。

b)2010〜14年、総生産が減少している自治体の特徴

19自治体が県平均以下の総生産の伸びとなっています。うち、内陸部が13自治体、沿岸部が6自治体です。
2010〜14年の総生産(宮城県114%の伸び)中で、沿岸部では、松島48%、女川71%、内陸部では、柴田90%、大河原・栗原95%が大幅な減少となっています。

●松島町

沿岸部で総生産が急激に減った松島町の特徴は、松島町にあった (株)東京エレクトロンが移転したことです。
松島町の製造業の生産額は2010年の703億円から11億円(2014年)に激減しました。
観光業の指標となるサービス業は107億円かせ102億円に95%となっています。

●女川町

水産業、製造業(主に水産加工)が7割台まで復興してきました。
電気・ガスは、女川原発の停止。
10年の電気ガスは374億円で女川の総生産707億円の53%を占めていました。

●柴田町

農業が14年度に10%減少。
製造業は2010年に562億円(町内総生産の39%)だったのが、2014年には372億円(同上28%)に大幅な減少となっています。
経済全体では2010年をピークに減少傾向です。

●栗原市

大震災後、地域経済が縮小傾向となっています。
01年から10年間で7%減少し、10年から4年間で5%の減少となっています。
農業は、2001年には133億円だったのが、10年には78億円(01年比で59%)、14年には71億円(同上53%)と半減しています。
大震災後の製造業も4年間で75%に減少しています。
(生産額で412億円から308億円に)

c)2001〜14年総生産で、高い伸びとなっている自治体の特徴

県平均101%を上回る自治体は、20自治体です。
11自治体が沿岸部、9自治体が内陸部となっています。
130%以上の伸びとなっている自治体が7自治体、沿岸部では、山元175%、南三陸158%、亘理147%です。
内陸部では、涌谷159&、大和147%、富谷144%、大衡139%です。

●亘理町

2001年の総生産741億円に対して、2014年は、1,088億円と、147%の伸びです。
大震災後の特徴は、建設業が8倍となっているのが第一。
そして、水産業、製造業が震災前の水準を超えています。

●大和町

2001年の総生産が1,018億円、震災前の10年が1,125億円で111%の伸び、14年には147%です。
大震災後の特徴は、一次産業の減少と製造業の高い伸び、サービス業の持続的な伸びが特徴。製造業の総生産は、2001年時点で308億円、2010年には339億円だったのが、2014年に623億円と大震災後に284億円の急増となっています。
人口も10年24,894人から14年27,513人111%(2,619人)の伸びとなっています。

●富谷市

富谷市は2001〜14年で総生産が県内一伸びた自治体。
産業では、林業が盛んであったが、人口増と宅地造成で衰退。
大震災後も人口が毎年1,000人規模で増え続けています。
産業では、卸売・小売、不動産業、サービス業が急成長しています。

【4-1】南三陸町 2010〜14年の変化の特徴(%)
  総生産 水産業 製造業 建設業
2010 100 100 100 100
2011 76 24 55 214
2012 95 63 68 301
2013 116 69 114 413
2014 177 173 185 859
【4-2】山元町 2010〜14年の変化の特徴(%)
  総生産 水産業 製造業 建設業
2010 100 100 100 100
2011 86 48 52 294
2012 110 26 69 491
2013 149 28 78 921
2014 173 50 67 1,190
【4-3】涌谷町 2010〜14年の変化の特徴(%)
  総生産 農業 製造業 建設業
2010 100 100 100 100
2011 110 95 122 190
2012 138 113 172 420
2013 134 111 171 290
2014 166 91 277 269
【4-4】大衡村 2010〜14年の変化の特徴(%)
  総生産 農業 製造業 建設業
2010100100100100
2011195110303127
2012136128138141
201315012319872
201415697204 90
【4-5】大崎市 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 農業 製造業 建設業
2010100100100100
2011123103331165
2012132118350177
2013140101535157
201414674625139
【4-6】七ヶ浜町 2010〜14年の変化の特徴(%)
  総生産 第一次産業 建設業
2010100100100
201183 63171
201213634 431
201313666 310
201414077 532
【4-7】松島町 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 製造業 建設業 サービス業
2010100100100100
201133114686
201244235494
201344232593
201448246895
【4-8】女川町 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 水産業 製造業 建設業 電気ガス
2010100100100100100
20113131611630
20125243376470
20135373625761
201472767310041
【4-9】柴田町 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 農業 製造業 建設業
2010100100100100
20119210780120
20129611187113
20138310751125
2014908866160
【4-10】栗原市 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 農業 総生産 農業 製造業 建設業
2001100100    
20109359100100100100
201195 10210211398
201291 981218380
201390 961157487
2014885395917581
【4-11】亘理町 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 農業 水産業 製造業 建設業
2010100100100100100
20111005656123219
20121206527129407
20131356153120645
201414454104109814
【4-12】大和町 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 第一次産業 製造業 建設業 サービス業
2010100100100100100
2011100112110 6892
2012111123135 57102
2013109107113 76105
201413378184 90109
【4-13】富谷市 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 第一次産業 卸売・小売業 不動産業 サービス業 人口(人) 人口増加率
200110010010010010036,573100
20101236313213917347,042129
20111288314014618848,269132
20121438914215019449,072134
20131408014515419650,138137
20141446414414820050,900139
d)2010〜14年で、県平均(101%)より低い伸びの自治体

県平均以下の自治体は、15自治体です。
沿岸部では、塩釜84%、多賀城95%、松島94%、女川61%の4自治体です。
これらの自治体は、震災後の4年間の建設業の押し上げがあっても2001年比では総生産が落ち込んでいる地域です。
内陸部の美里83%、七ヶ宿87%、蔵王87%、栗原88%などでは、13年間で総生産が10%以上落ち込んでいる地域です。
第一次産業の衰退、東日本大震災の影響などによると思われます。
なお、女川【表4-8】、松島【表4-7】、栗原【表4-10】は、前項でみたとおりです。

●多賀城市

製造業の総生産は、01年を100としてみると、10年までに74%で、大震災後、14年に38%まで減少しています。
ソニーの撤退、大震災後の工場の内陸部への移転など影響しています。建設業は、14年度は10年比で541%となっています。
14年度の総生産が1,841億円で建設業が328(10年が61)億円です。
復興にともなう建設需要が元に戻ることを想定すると、総生産は1,574億円となり、01年の1,946億円の81%と推定することになります。
こうした状況は、01年比で、電気・ガス66%、卸売・小売業73%、サービス90%など他産業にも影響を与えています。

●塩釜市 2001〜14年の総生産で、建設業除く全産業が大きく後退

塩釜市の総生産は、2001年を100とした場合、10年までに75と大きく落ち込みました。
金額にすると、2001年の1,904億円が2010年には1,435億円に469億円の減少です。
そして大震災でさらに落ち込むという二重の深刻さが重なっています。
内容で見ても、地域経済を支えてきた地場産業が2001年比で、水産業44%、製造業(水産加工業)72%、卸売・小売業56%と、大きく後退しています。
14年度の総生産が1,609億円で建設業が263(10年が66)億円です。
復興にともなう建設需要が元に戻ることを想定し14年度の総生産を1412億円と想定しますと、01年の1,923億円の73%となります。
こうした地域経済状況のなかで、他産業も、14年度の総生産は01年に比較して、電気・ガス・水道64%、金融・保険46%、不動産96%、運輸96%、情報通信79%、サービス76%と建設業を除く全産業が大幅に後退しています。
【表4-16】は、塩釜市の人口の変化です。
2001〜10年の9年間に4651人・7.61%の減少、2010〜14年の4年間に1887人・3.34%の減少となっています。

【4-14】多賀城市 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 製造業 総生産 製造業 建設業
2001100100
20108874100100100
201186569776248
2012943310644471
201386249832317
2014953810751541
【4-15】塩釜市 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 製造業 卸売・小売業 水産業 総生産 製造業 建設業 卸売・小売業
2001100100100100    
201075766255100100100100
201171735134949612572
20128690534810811821987
2013785757311047524392
2014847256441099440190
【4-16】塩釜市の人口(%)
  全人口(人) 2001年比 2010年比
2001 61,141100 
2010 56,49092100
2011 55,8289199
2012 55,1779098
2013 54,8589097
2014 54,6038997
●白石市

2001〜10年で総生産が90%に10%減少。
主に第一次産業、製造業の減少が影響。
大震災後は総生産を維持していますが、建設業が2010〜14年で195%と倍化していることが支えとなっています。 製造業は、2001年が260億円、2010年が248億円、2014年が190億円と推移し、大震災後58億円の減少(77%)となっています。

●気仙沼市

2010年の総生産が01年比で84%、金額で、2522億円(2001年)から2,124億円(2010年)へ398億円の減少のなかで大震災となりました。
水産業は半減していました。
大震災後の状況では、製造業が、2014年の時点でも、10年比で53%と半減している状況で、気仙沼の地場産業の柱であった水産業、水産加工業が深刻な実態となっていることを示しています。
2014年の総生産が、2010年、2001年を超えていますが、復興に伴う建設需要の増大によるものです。
2014年度の総生産が2570億円で、うち建設業が896(10年が137)億円です。
復興にともなう建設バブルが元に戻ることを想定し14年度の総生産を1801億円と想定しますと、01年総生産2,522億円の71%、10年総生産2,124億円の85%となります。
人口は、平成22年73,489人から2014年66,210人へ、▲7,279人、90%へ減少しています。地場産業の長期の衰退、大震災からの復興の顕著な遅れは、地域の他産業にも影響します。
14年度の総生産は01年に比較して、電気・ガス・水道68%、卸売・小売業57%、金融・保険69%、不動産79%、運輸90%、情報通信71%、サービス70%と建設業を除く全産業が大幅に後退しています。

【4-17】白石市
2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 第一次産業 製造業 総生産 建設業
2001100100100  
2010908495100100
201186977396158
2012831053692173
201389826099152
2014927673103195
【4-18】気仙沼市
2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 水産業 製造業 建設業 製造業
2001100100100100 
201084499191100
201167383916943
201275414219446
201386434627450
2014102444859553
●石巻市

石巻市は、2001〜10年の9年間に総生産が86%(金額で5,504億円から4,803億円に701億円の減少)に後退する中で大震災の被害をうけました。
大震災後の復興状況では、水産業80%、製造業86%、卸売・小売業90%です。 2014年の総生産は、対10年比で122%となり、対01年比でも107%となっていますが、震災復興の建設需要による押し上げです。
建設業は、2010年295億円だったのが、14年には1,772億円となり6倍化しています。
市内総生産が10年比で4,803億円から、14年5,883億円に、1,080億円伸びていますが、建設業だけで1,477億円の伸びとなっています。
復興にともなう建設バブルが元に戻ることを想定し14年度の総生産を4,406億円と想定しますと、01年総生産5,504億円の80%、10年総生産4,803億円の92%となります。
人口は、2010年160,826人から2014年146,906人へ、▲13,927人、91%へ減少しています。 地場産業の長期の衰退、大震災からの復興の顕著な遅れは、地域の他産業にも影響します。
14年度の総生産は01年に比較して、電気・ガス・水道75%、卸売・小売業72%、金融・保険57%、不動産84%、運輸101%、情報通信84%、サービス80%と建設業、運輸業を除く産業が大幅に後退しています。

【4-19】石巻市 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 水産業 製造業 総生産 水産業 製造業 建設業 卸売・小売業
2001100100100     
2010869690100100100100100
201172553583573920995
20129653431115547480100
201310471671217474481106
20141077777122808660190
e)仙台市の動向について
●仙台市

仙台市の総生産【表4-20】は、2014年で4兆9,168億円で、宮城県の県内総生産8兆5,450億円の55%を占めます。
仙台市の総生産は、01年から10年にかけて減少傾向でしたが、大震災を起点に増加傾向に転じています。
その内容を、産業別に見たのが【表4-21】です。
2014年では、農業、製造業が後退し、建設業、不動産業、サービス業の生産が伸びています。
2010年比で2014年の総生産が6,612億円増えていますが、そのうち、建設業で3,652億円、不動産業で666億円、サービス業で1,553億円の増となっています。
建設業とサービス業で5,000億円を超える押上げとなっています。

【4-20】仙台市の総生産
2001年以降の変化(%)
金額(億円) 2001年比
200146,162100
20094188193
201042,55695
201142,78095
201246,992103
201348,652106
201449,168107
【4-21】仙台市 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 農業 製造業 建設業 卸売・小売業 不動産業 サービス業
2010100100100100100100100
20111007452164103102104
20121097984269100106108
20131128191290106108111
20141168397286102111115
f)利府町の動向と二市三町の卸売・小売の変化について
●利府町

利府町の総生産は、2001年が845億円で2014年に、対01年比で102%です。
そのなかで、卸売・小売業が88%に、サービス業が112%に変化しています。

【4-22】利府町 2010〜14年の総生産の推移(%)
  総生産 卸売・小売業 サービス業 第一次産業 製造業
2001100100100100100
2010101818866112
20141028811238101
●2市3町での卸売・小売業の変化について

2市3町(塩釜、多賀城、松島、利府、七ヶ浜)は、1980年代までは、塩釜市中心とした経済圏を形成していました。
利府ジャスコの出店を契機に様相が大きく変化してきました。
1998年の利府ジャスコ(当時、東北一の規模)の出店は、近隣市町を含め地域経済の様相を大きく変えました。
【表4-23】でみると、1997年〜2001年で、利府町の総生産が43億円増加し、塩釜▲33億円、多賀城▲8億円、松島▲4億円となっています。
その後、
①塩釜市の衰退が急速にすすむ。2001〜14年で56%に。②2市3町の卸売・小売の総生産の合計で、2001〜14年で67%(▲195億円)に減少しています。
③利府町での総生産も2001年をピークに10%を超える減少となっています。
いま、「東北一のイオンタウン」の計画が利府町内ですすめられていますが、地域の商店街の存続、高齢化の中での「買い物難民」の広がりなど、「住みよい街づくり」の視点から注視しなければならない課題です。

【4-23】2市3町の卸売・小売業の総生産の変化(%)
  1997年 2001年 2010年 2014年
塩釜市  27,74424,40715,03513,568
10088  
 1006256
多賀城市  21,36620,53715,24914,921
10096  
 1007473
松島町  3,0012,5451,7611,875
10085  
利府町  5,96910,2338,3338,986
100171  
 1008188
七ヶ浜町  2,5962,3271,7111,158
100 90  
 1007450
合計  60,67660,04942,08940,508
 1007067

〔五〕2015(平成27)年度、宮城県「速報値」について

1)経済活動別県内総生産(名目)の特徴について

今年4月に、2015年度の県内総生産の「速報値」が発表されました。
【表5-1】がその概要です。
大震災後の県内総生産の速報値は、本レポート[一]で分析した諸特徴の延長戦上に位置しています。
2010〜15年の総生産の伸び率は、115.6%です。
15年度「速報値」で特徴的な点は、大震災後成長してきた製造業が前年比で▲707億円となったことです、『河北』では「原油価格の下落」(4/4)が要因としています。
震災前の2010年度と比較してみると、総額で1兆2,178億円の増ですが、うち8409億円が建設業の増加分です。
復興需要での建設業の高い伸び率が総生産全体を引き上げていることが、2014年度より鮮明になっています。
合せて、サービス業1972億円の増、卸売・小売725億円の増、運輸705億円の増、製造業267億円の増など、震災前を総生産で超える業種が広がってきていることも特徴といえます。
2015年の「速報値」で重要な特徴の一つは、「第一次産業が10.6%増で3年ぶりに増加した」(同上)ことです。
「漁港の復旧による水揚げ量の増加により、水産業が18.9%増。農業は農産物の価格上昇で6.2%の増」(同上)としています。
農業は震災前の87%、水産業は95%となっています。

【5-1】2015年度 県内総生産 [速報値](単位:億円)
  2010(A) 2014(B) 2015(C) (C)-(A)
農林水産業 全体 1,1719601,063▲108
うち農業 711585621▲90
うち水産業 423339403▲20
製造業10,64211,61610,909267
建設業4,36411,80812,7738,409
卸売・小売10,60211,57211,327725
運輸3,7504,3854,455705
サービス15,41316,89317,3851,972
県内総生産78,02188,95890,19912,178
2)県民所得の特徴について

『河北新報』(2017.4.4)報道では、「県民所得は、1.6%増の6兆6,401億円で4年連続のプラス。
1人当たりの県民所得は1.3%増の284万5000円だった」と報じています。
2015年の県民所得(速報値)【表5-2】の特徴としては、「三、県民所得の動向について」で分析した内容の延長線上に位置しています。
2014年度に比べても、県民所得に占める企業所得の比率がさらに高くなっています。
【表5-3】は、【表3-1】を「速報値」に合わせて作成したものです。
この表からわかることは、県民所得が2010〜15年に高い伸び(116%)を示しても、雇用報酬はほぼ横ばい(101%)で、企業所得だけが高い伸びとなっていることです。

【5-2】2015年度 県民所得 [速報値](単位:億円)        
  2010(A) 2014(B) 2015(C) (C)-(B)
① 県民雇用者報酬40,61840,82741,191364
② 財産所得3,3003,9164,173256
③ 企業所得 全体 13,33220,60121,036435
民間法人企業 5,41813,54113,806265
公的企業 54547454167
個人企業 7,3686,5856,687102
県民所得 ① + ② + ③57,25265,34566,4011,056
【5-3】2010〜15年 県民所得の推移(単位:百万円)  
  2010年 2014年 2015年 [速報値]
県民所得 ① + ② + ③5,725,2246,534,5586.640.105
100114116
① 雇用者報酬4,061,8944,082,7814.119.119
 100 101101
(構成比)70.94%62.47%62.03%
② 財産所得 330,077391,675417.370
 100 119126
(構成比)5.76%5.99% 6.28%
③ 企業所得1,333,2532,060,1022.103.615
 100155158
(構成比)23.28%31.52%31.68%

《まとめ》

(1)今回のレポートで、東日本大震災から5年間の経済指標を分析するなかで明らかになったことを、4点にまとめてみます
県内総生産の高い伸び率(成長率)の下に隠れている課題を直視することが重要。
第一は、県内総生産の高い成長率の見方の問題です。
『河北新報』(2017.4.4)は、15年度速報値の県内総生産にたいして、「統計で比較できる01年度以降で最大となった」と報道しました。
しかし、その報道には重大な「落とし穴」があります。
それは、宮城県の「新みやぎ建設産業振興プラン」(平成28年3月)では、「今後の県工事建設投資見通しは、震災前の水準まで激減する見込み」とされているからです。
平成30(2018)年3月で県内の公営住宅の建設が98%まで完了する見込みとされています。
宮城県は、復興期間を10年としていますが、建設業が「震災前の水準」=2010年度の水準まで「激減したら」、県内総生産も9,000億円規模での激減となります。
一方で、地場産業の衰退がそのまま放置されたら、復興需要で吸収されている県民の働き口も失われ、深刻な不況となることは十分に予測されることだと思います。
この期間に、第一次産業をはじめ、地場産業の振興に特別の努力をはらわなければならないと思います。
(2)宮城県の「創造的復興」は「誰のための復興」だったのか

県民所得の分析は、2011〜15年の5年間だけをとってみても、県の復興事業が、大手ゼネコンを中心とする一部大企業の利潤獲得に最大限貢献するものであったことが、今回のレポートでも、部分的ではありますが、明らかにすることができたのではないかと思います。
【表5-3】にみられるように、県民所得に占める企業所得の構成比率は、2010年では23.28%でした。
2000年代の10年間はほぼこの水準でした。
ところが、大震災後の復興のなかで、企業所得が30%台にハネ上がっています。
ここには、建設業関連での大手ゼネコンのボロモウケの姿が現れているのではないでしょうか。
「雇用者一人あたりの報酬」が2004〜14年の10年間で18万7千円も減少【表3-2】しているなかで、東日本大震災の復興事業をとおして「企業所得」だけが1.55倍(7,268億円の増)と急増しているのです。【表3-2参照】  
ここで注意する必要があることは、建設業の総生産が地元業者を潤すものとなっていないことです。
「四、市町村内総生産の特徴について」のなかで、建設業が大震災前の7倍、8倍となっている自治体がありましたが、統計の取り方として地元業者の積み上げによって総生産額が算出されていないのです。
「県民経済生産の推計方法」によると、「建築工事・土木工事」は、「①産出額=全国建設投資額╳出来高ベース工事高比率+自社開発ソフトウェア」となっていて、主に国土交通省の資料により算出され、自治体別に割り振られています。
防潮堤や災害公営住宅などで、大手ゼネコンが受注し、下請け系列に仕事が回る仕組みです。
塩窯市内の建設業者の聞き取りでも、「ほとんど仕事が回ってこない」というのが実態としてあります。
建設業の総生産の数値が上がっても、そのことが、地域経済を潤すことになっていないこと、企業所得も県民所得の一部として県民の財産ですが、それが、大手ゼネコンに吸い上げられたとしたら、地域経済は良くなりません。
このことも重要な課題だと思います。

(3)宮城県「富県戦略」への幻想が宮城の地域経済をだめにする。地場産業の真剣な振興を 

『河北新報』が、「「みやぎ考―17宮城知事選」という連載(2017.5.22から)をおこないましたが、そのなかで、人口問題を中心に「加速する仙台一極集中」「地方過疎化」を告発しています。
また、「『県土の均衡ある発展』。県政運営の基軸にあった理念は、風前のともしびになりつつある」と指摘。
「地域経済は誘致企業に依存し、地場産業の衰退が進む」――まさに、「そのとおり」と思います。
今回のレポートでも、そのことは明確にあらわれていると思います。
いま、各自治体は、地域経済政策をたてることができなくなっています。
「企業誘致」はどこの自治体でも首長さんの口からすぐでてくるのですが、それ以外がないのです。
レポート「二、事業所と従業者の大移動」にまとめたように、津波被害の沿岸部だけでなく、内陸部の自治体でも企業が減少しています。
〝製造業が撤退したとき、農業は半減していた〟――こうした自治体の例もありました。
「トヨタが誘致された大衡村は豊かになったのか」に挑戦してみましたが、企業所得は増えても就業者の所得は増えず、「村民一人当たりの所得」が「県内一」でも企業所得が49%も占める(県平均31%)。
企業誘致は、雇用の拡大、地域の活気を生み出しますが、それは地場産業の振興と一体にすすめられてこその話です。
地場産業を放置して、誘致企業頼みでは、地域経済は良くなりません。

いま、地域で活動している産業を育成してこそ、未来があります。そうした自治体は全国にあります。
政策の転換を強く求めたいと思います。
最後に、今年度末に「2015年国勢調査」が出されます。
格差が拡大している宮城県の実態を正確につかむこと、とくに、東日本大震災から4年後の2015年がどう変化しているのかを正確につかむことが、今後の政策活動のうえでも重要になると思います。

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